第四章 東の最果て

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第四章 東の最果て

   スクヴィラは青く晴れた空を見上げる。視線を下げて地平線を見通せば、白化粧した山脈が視界の左右を埋め尽くしていた。 「冬山の麓の上が夏空とは………相も変わらず、常識とは何かを思い知らされるものよ」  一度足を踏み入れれば、二度と帰れぬ死の山と呼ばれる東の山脈を越えた先に存在する未開の地。人間達はそう呼んでいたが、事実は異なる。  空は青く澄み切っている。  今は1年の中で比較的暑い日が続くが、最も作物の成長が早く、赤緑実り豊かな時期でもある。あと数か月もすれば日が落ちるのが早まり、小麦や米が主役と移り変わる。  虫の鳴き声が、城の中にまで届いている。  亜人達の国、ティルノーグの夏は、記念すべき100回目を無事に迎えることができた。 「スクヴィラ様」  ボルドーが彼女の背中で跪いている。 「ん? あぁ、いつも済まぬな。年を重ねるごとに、時間に対する感覚がおかしくなりそうだ」 「………何をおっしゃいます。この地に来てまだ数十年。吾らを導かれる魔王様が年を取ったなどと………部下の前では言葉にされないよう、お願いいたします」  スクヴィラは、長年仕えてきた忠臣を見下ろしながら満足する。初めて出会った頃は、その辺りにいる亜人よりもやや強いといった程度の印象だったが、育ててみると中々どうして、今では亜人の頂点を意味する魔人、その77人の1人に数えられる程の存在に昇りつめていた。 「分かっておる。吾とて、冗談を言うべき相手は心得ておる」 「感謝の極み。しかし、それはそうと、そろそろ―――」「うむ」
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