第四章 東の最果て

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―――水雷のボルドー。  引退した父親に負けない冷静な判断力と洞察力に加え、稲妻のような激しさと速さを兼ね備えた彼は、多くの亜人の憧れであり、目標である。当時共に迎えた亜人達の何人かは既に生を終えるか引退して余生を満喫しているが、なお働いている者も含め、彼らの殆どがこの国にとってなくてはならない人材であった。  スクヴィラはボルドーを率い、石造りの床を進む。 「スクヴィラ様、本日の御予定ですが―――」「あぁ、吾はそれ以上聞きたくないのだが」  秒単位で刻まれた行動表(メモ)を持つボルドーを後ろに、スクヴィラが首を振って駄々をこねる。彼は眉を下げながら、最早日課に近い主の物言いに対し、聞こえないように息を吐いた。 「しかし、スクヴィラ様に決めて頂きたい案件が数日前から滞っております」  人材の育成、物資の購入、農業や工業等、生産に関わる計画について、最終的な許可は王を通さなければ実行に移せない。弱肉強食を基本的な国是とする亜人の国家でさえ、その頂点たる魔王の裁可がなければ何も進めることは出来なかった。 「全く、何もかも奴のせいだ。何故、吾が奴らと共に国を成さねばならぬのか」  この言葉も1日1回は空気中に放たれている。窓の外を見れば大きな川が流れ、その先は平坦な地面がこれでもかと続いている。そこでは、完成した建物や未完成の道路など、まだまだ街と呼べるほどには至っていない光景が生み出されていた。
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