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「やぁ、スクヴィラ。相変わらず小さいな。ちゃんと飯食ってるのか?」
顔に土汚れをつけた相田にそう吐かれる。今更予想外の事ではないが、この男の言動は毎回見るたびに驚かされ、そして呆れるしかない。
スクヴィラは首を左右に振って、大きく息をわざとらしく吐く。周囲の亜人達は、スクヴィラの容姿について堂々と指摘する男の言動とそれを静かに受け止めているスクヴィラの姿に息を飲み、その先に起こるであろう凄惨な光景を勝手に想像し、勝手に青ざめていた。
「貴様………分かってて言っておるだろう」
スクヴィラの呆れた声に、相田が『まぁね』と肯定する。
「スクヴィラが俺の所に来るのは、悪戯か余程の案件かのどちらかだからな。今は大きな事件や事故もないし、悪戯は確定。なら、たまにはこっちから打って出るのも、いいかと思ってね」
意地悪く目の前の男が笑う。こちらの企みに気付いた上で先手を打ってきたという意味なのだろう。確かに、ここ最近は大きな問題もなく、人間の国との接触も順調、会社との争いも沈静化している。
そして、スクヴィラは彼の汗を拭い、半袖姿で亜人達と土木事業に勤しむ姿を見て、心の隅で安堵する。
数十年前、あの事件で殿を務めた大魔王が、たった1人で戻って来た時の彼の表情は、今でも脳裏に焼き付いている。あれ程までに殺気を放ちながら哀しみに満ち溢れた顔で笑い、全てを破壊しようとした彼の言葉と行動は、流石のスクヴィラも肝を冷やした。
そして彼の気持ちの一端程度は、父親の死という経験から彼女も理解できるようになっていた。
魔王の人生と人間の人生の長さは大きく異なる。老衰という生物にとって避ける事の出来ない自然現象は彼女の父、キエフにも等しく適用され、彼は微笑みながら皺だらけの手で娘の髪を撫で、70年という人生に幕を閉じたのである。
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