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両足を骨折し、二ヶ月間入院することになったが、命に別状はなかった。
マンションの住民に被害はなかったが、退院後しばらくして、精神科近くのアパートに引っ越した。
鬱病であることが分かり、文彦はこれまでの態度を厚美に謝った。
彼女は、「文くんのせいじゃないよ」と、久しぶりの笑顔を見せたが、文彦にはそうは思えなかった。
彼女が自殺しようとしたのは、彼が怒鳴った日の夜のことだったし、思い返してみれば、彼女の様子がおかしくなり始めたのも、三度目の性行為をしてからだった。
考えれば考えるほど、自分自身が原因だと思えて仕方なかった。
マンションは九階建てだったけれど、彼女が飛び降りたのは三階だった。
職場の人にその話をすると、「本当は死にたくなかったんだろうね」と言われた。
けれど、文彦はそうじゃないだろうなと思った。
厚美が三階から飛び降りたのは、彼女の部屋が三階にあったからだ。
階段を上る体力も、エレベーターを待つ気力も、その時の彼女にはなかった。
それほどまでに、彼女は疲れきっていたのだ。
おれとの関係も、働き続けることも、目まぐるしく変化する世の中に順応することも、全て億劫で憂鬱な物事になっていた。
俺はそのことにいつまでも気付かないまま、朝日を遮る分厚い雲のように、彼女を暗くじめじめとした影の中に落としていたのだと、文彦は深く反省した。
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