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彼女の部屋には、必要最低限の物しか置かれていない。
ワンルームの狭い部屋に置ける物などそもそも限られてはいるが、それにしても物が少なかった。
背の低い小さな木製の机と、座椅子が二つ。
机の上にはリモコンや綿棒やティッシュなどが乱雑に置かれてはいたが、装飾のようなものは一つもなかった。
テレビとDVDプレーヤーはあったが、これは彼女が退屈しないようにと文彦が買ってきたものだ。
あとは箪笥やベッドがあるぐらいで、部屋からは彩りというものが徹底して排斥されていた。
そのせいで、冷蔵庫にぺたりと貼り付けられた水道業者のマグネット広告が嫌に目立っていた。
部屋を見せただけなら、「つい先週引っ越してきました」と言っても、誰も疑わないだろう。
冷房がきいていて涼しかったが、空気は何故かずっしりと重く感じた。
「これ、ワッフル」
タッパーを渡すと、彼女は「いえーい」と笑った。
いつもならすぐに食べるのだが、今日は何故か、冷蔵庫に大事そうにしまった。
「文彦くんに、今日はお話があります」
厚美は畏まった態度で、文彦の前に正座すると、「どうぞ」と文彦にも座るように示した。
「私は今日を最後に、とても長いお休みを終えたいと思います」
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