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依頼主が嬉しそうな声を上げる。
「今回も見事な手際でした」
「たいしたことじゃない」
「今回はその種類において最上級の代物だったので、報酬はいつもの倍、お支払いします」
俺は依頼主を怯えさせるほど睨んだ。
「2倍? 本気で言っているのか!」
依頼主があわてて、口調を変える。
「いやいや、私としたことが。とんだ計算違いをしてしまいました。今回の獲物は大変でしたから、3倍……」
俺は深いため息を吐く。
「逆だ。2倍は多すぎる。今回の仕事は比較的簡単だった。1.2倍で十分だ」
依頼主はこめかみ辺りを掻いて微笑んでいた。
「わかりました。良心的でありがたいです。1.2倍お支払いします」
「それでいい」
俺は報酬を受け取ると街の中に消えて行った。スルメを噛みしめながら思った。
そういえば、今日釣ったのはイカだったな。
わざわざこっちから出向かなくても、イカが降ってくるような異常事態が起これば、俺も依頼者も楽なのだが。そんな世の中、あるわけないよな。俺は柄にもなく楽観的なことを考えた。
噛み締めているスルメの甘みを強く感じた瞬間だった。
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