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第1章 迷いりす ー幾夜ー
片耳のもげたくまを、本棚の上から救出した。
脚立から滑り降りて、痛々しいその小さな頭部についたほこりを払い落してやる。駆け寄ってきた部下の書店員が、残念そうに嘆息した。
「もう終わっちゃったんですか。子どもの大事なお友達を助けてあげる、星崎社長の雄姿。映えそうだったのに」
エプロンのポケットにそそくさとスマホをしまう彼に軽く目で応えると、幾夜は折りたたんだ脚立を担いでフロアを進んだ。しばらく行くと、レジのとなり、四十脚のパイプ椅子が密集しているスペースにつきあたる。腰かけている子どもたちのひざには、大小さまざまなぬいぐるみがたたずんでいる。
星降る書店栞町本店名物『ぬいぐるみのお泊り会』なるイベントゆえである。
小学三年生以下の子どもたちを対象に、お気に入りのぬいぐるみを預かり、後日、ぬいぐるみが書店内で本を選んでいる様子を撮影した写真を提供する。
本来図書館で行われはじめた企画だが、読書の促進には有益そうだったので、社員からの提案を採用してみたら、まずまずの評判で、本日三度目の開催を迎える。
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