2. IBSとカムアウト

3/17
前へ
/97ページ
次へ
「あなたの場合、ここに書かれているうちの『下痢型』だね。この病気に関しては、正直、はっきりとした原因ってのがまだよく分かってないんだよ。だから治療法も特別これといったものはなくてね……」  医師はかなりの高齢だった。今年八十六になるネヅの祖父よりもさらに老いぼれて見える。回転椅子に身体を預けるその姿は、さながら干からびた小猿のようだ。 「……じゃあ今後、僕はどうすればいいんですか? どうしたらこの腹痛から解放されるんですか? 本当に困っているんです。毎朝トイレにこもりきりだし、一時的におさまって出社しても、電車で移動中に再び耐えきれない腹痛に襲われる。途中下車して命からがらトイレに駆け込んだことがこれまで何度あったことか。これじゃ家から一歩も出られない。トイレに監禁状態です」  必死に訴えたが、目の前にいる白衣の老人は石のように黙ったまま眉一つ動かさない。顔が皺くちゃなのも手伝って表情から読み取れるものがまるでなかった。  
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加