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ここは人ならざるもの間トラブル解決何でも屋、黄泉平坂骨董店。
店主はあたしの一番上の兄、陰陽師にして神の力の一部を持つ士朗お兄ちゃん。
あたしは末っ子で名前は桃。彼を含む四人の義兄たちと暮らしてる。
義兄なの?って?
ほんとは実の兄じゃない。あたしは小さい頃事故に遭い、昏睡状態だった六年もの間、体の成長がなぜか止まってた。そんな異常なのと、事故の際に両親が亡くなり天涯孤独になったことから、本家の士朗お兄ちゃんが引き取ってくれたらしい。
二人目以降の兄たちも分家の人間で、本家の跡継ぎを補佐すべく集められたそうだ。だからみんなほんとの兄弟じゃない。
そんな奇妙でイケメンな家族に囲まれ、どこの逆ハーものだってツッコミしつつ過ごしてるわけだけども。
さて今日のお客様は。
「頼むっ! 探し物手伝って!」
ある日の昼下がり、ふらりとやってきて手を合わせて頼んでる神がかったイケメンは誰あろう。
いや、つーか本物の神様なんですけど。
しかも超大物じゃないか。
粗相しないか、あたしは冷や汗もんで背筋正した。
「……そりゃお手伝いしますが。イザナキ様」
ぐーたらゲーム生活な士朗お兄ちゃんも、さすがにこんなレべチな神様来たら起き上がって正座してる。
穏やかな青年といった風貌のイザナキノミコトは爽やかな笑顔になった。
「助かるよ!」
「ではまずその物の形状と、いつどこで落としたか心当たりは」
「うーん。千五百年くらい前に京都あたりでかな」
「時間が壮大すぎる!」
あたしは思わずつっこんだ。
「あ、すみません」
「いや、桃の言う通り。いくらなんでもそんな大昔のもの、残ってないでしょう。というか見つかったら重要文化財レベルですよね」
神様の落とし物だから神器レベルだと思う。
大丈夫かな。何個かそろえたら何か召喚しちゃわない? それとも世界が滅ぶ的な?
「神が持ってたものだからそう簡単には壊れないよ。たぶんどっかの地面に埋まってるんじゃないかなぁ」
神様はあっけらかんと言った。
埋まってるってちょっと。
「イザナミがつけてたネックレスでね。直前、隋に使者送るっていうんで応援プラカード作って奈良に見送りに行った時はつけてたはず。その後、今の京都あたりまで将来こっちに都ができるらしいよーってピクニックに行ったから、その時落としたと思うんだよね」
どこからつっこんでいいですか。
士朗お兄ちゃんもため息ついた。
「神の持ち物落として千年以上ほっとかないでくださいよ……。下手に人間に拾われでもしたら、大変なことになる」
「今んとこ何も起きてないから、拾われてないんじゃないかな。すっかり忘れてたんだけどさー、今年厩戸皇子が生誕何年とか何とかのニュース見て思い出した」
「どこの地中深くにあるか分からないものを探せと言われましても」
「だから桃ちゃんに手伝ってほしいんじゃないか」
イザナキノミコトはピッとあたしを示した。
え、あたし?
きょとんとするあたしと対照的に士朗お兄ちゃんは顔をしかめた。
「イザナキ様、桃は」
「分かってるけどいつまでも秘密にはしておけないよ? 君も分かってるだろう? それにあれはイザナミのお気に入りだったしね。ちょっと昨日怒られて、仲直りの口実にしたくてね」
「また何か見ちゃいけないと言われたのに見たんですか」
「見てないよ。濡れ衣だって」
士朗お兄ちゃんはしぶしぶうなずいた。まぁ断れないよね。
「……とはいえ仕方ない。桃」
あたしのおでこに手をかざす。
「士朗お兄ちゃん?」
「古くは探し物も陰陽師の仕事だった。ほら、平安時代に貴族の姫連続失踪事件があった時、陰陽師が占いで酒呑童子のとこに囚われてるって言い当てただろ? だから目つむって集中してごらん」
あ、陰陽師の修行ね。
言われた通り目をつむる。
「どこかに何か、似た気配を感じないか? 共鳴っていうか。それを探すんだ」
「うん……」
あたしに似たもの……共鳴……。
何かを探すように力の効果範囲を広げる。
「―――見つけた」
行ってみるとそこは。
「あれ、ここって綺子ちゃんちだ」
そこは行き場のない人ならざるものたちが集まるところでもある、妖狐警察本部の山だった。
「いらっしゃい。ようこそ」
「綺子ちゃん。それ制服? 初めて見た」
偉い警察官みたいな赤い制服だ。
美少女+アニメ風警察官制服+狐の耳と九本の尻尾。
イイネ!
綺子ちゃんは肩をすくめて、
「そりゃ日本の神のトップが来るとなればね。ああ、話は聞いてる。どこでも好きに掘ってちょうだい」
士朗お兄ちゃんはあっさり答えた。
「すぐ済むよ。紅介」
「ほいよ」
紅介お兄ちゃんが前に出た。なぜかついてくるよう言ってたね。
しゃがんで地面に手をかける。
「よいしょっ」
次の瞬間、ボコって山持ち上げた。
「は?! ちょ、えええええ!?」
軽々と素手で山一つ持ち上げたよ!
「三角コーンか!」
「ん? ギリシャの神アトラスなんかもっと高い山ずっと休みなしで支えてんぞ」
「比較対象がおかしい! てか、アトラスはもう自分からメデューサの首見て石になってんじゃん」
だからもうきっついとか思わないじゃ。
「オレはタヂカラオの力を授かってんだよ。ほら、天岩戸こじあけた神様。だから怪力でさ」
あ、そうだったんだ。どうりで。
「……お、みっけ」
四番目の兄は手つっこんで勾玉取り出した。
「ふう」
下ろすと山は元通り。つなぎ目なんかない。
どーゆー不可思議現象。あ、神業か。
「あ、これこれ! ありがとう! いやぁ、助かったよ~」
「見つかってよかったですね。でもこれを持って行くと……。これについてたイザナミ様の力でこの山神は生まれたんでしょうから、なくなると弱体化するんじゃ」
「と思って、代わりのもの持って来てるよ。私の持ち物なら代用できると思う。はいあげる」
サイン入りユニフォームでてきた。
「……なんですかそれ?」
ついきく。
「これ? 私のサッカーユニフォーム。人外サッカー日本代表の監督なんだよ~」
「それは前にきいたことありますけど!」
イザナミノミコトの勾玉の代わりに置いてくのがイザナキノミコトのサイン入りサッカーユニフォームて!
いいの?! やたら現代的、あとそれで山神の弱体化って防げんの?!
「神の力が残ってるなら何でもOKだろ」
「士朗お兄ちゃん、つっこもうよ」
紅介お兄ちゃんも驚かず、
「ちなみにオレ、代表チームのメンバー。明日練習試合あるぜ」
「ええ!? ちょ、早く言ってよ!」
「あ、見たい? じゃあ行くか。蒼太も喜んで弁当作るだろ」
「愛妻弁当とかゆって作りそーだなー」
「ヤメロ」
女性化してフリフリエプロンつけて鼻歌歌いながら作るのが想像できる。
二番目の兄、蒼太お兄ちゃんは両性具有。気分でどっちの性にもなれる。ちなみに今日は『お姉ちゃん』だった。
「あっはっは。うん、見においで~。それじゃ今日はほんとにありがとうね。また明日!」
イザナキノミコトはシュッて消えた。
「……士朗お兄ちゃん」
あたしは思い切ってきいてみた。
「なんであたし、今回探知できたの? イザナミノミコトの持ち物と共鳴って? お兄ちゃんたち四人とも神様の力の一部持ってるよね。てことはあたしも……」
「…………」
士朗お兄ちゃんは硬い表情で答えなかった。
蒼太お兄ちゃんと綺子ちゃんはそれを見て、倣うように黙ってる。
あたしも普通の人間じゃないのは分かってた。でなきゃ昏睡状態だからって六年間も肉体の成長まで止まるわけがない。
あきらかに異常。
それが神の力の影響なら納得できる。
なぜあたしはそんな力を持ってるのか。それを得たのはなぜなのか?
ちらっと綺子ちゃんを見た。
人為的に強力な妖の力を持つ陰陽師を作ろうとして、結果綺子ちゃんは妖狐になった。させられた。
ライバル陰陽師の家系に対抗しようと、比良坂家は神の力を手に入れようとした。士朗お兄ちゃんたちはそのため利用され、怒った神々によって実行犯たちは地獄に落ちた。
あたしもその時に―――?
「士朗お兄ちゃん」
「……桃。そのことは今度な。帰るぞ」
士朗お兄ちゃんはそっけなく言って踵を返した。
あたしはとまどいながらその後ろ姿を見つめていた。
どうして内緒にしてるの?
あたしが持ってる力はイザナミノミコトの力なんでしょう?
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