断罪された悪役令嬢は、最強魔道師様に溺愛されているようです

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断罪された悪役令嬢は、最強魔道師様に溺愛されているようです

「今夜お前を断罪し、婚約破棄してやる!」  私の婚約者であったはずの王子は、まったく身に覚えのない冤罪を問答無用に押し付けてきた。あまりの突然の出来事に反論する暇もなく私は断罪され婚約破棄と国外追放を言い渡された。 「あぁそれと、もちろん公爵家とも縁を切られるからな。お前は無一文の平民として放り出されるのだ!ふはははは!まるで物語の悪役令嬢のような末路じゃないか?」  そう言いながら高笑いをした王子は、私が嫉妬から殺そうとしたらしい男爵令嬢の腰を抱き寄せる。  もちろんあんな令嬢など知らないし、嫉妬から殺そうとするなんてあり得ない。  だが、両親や兄からも見捨てられたのだという現実に絶望した。 「どうした。さっさと俺の前から消え失せないのなら……今ここで殺してやろうか?!」  その場に崩れ落ち、動こうとしない私にイラついた王子が腰の剣に手をかけようとした瞬間ーーーー。 『ならばその娘、我がもらい受けよう』  少しくぐもった声が頭上から降ってきた。  音もなくふわりとその場に舞い降りたのは、顔すら判別出来ない程に全身をすっぽりと黒マントに包みこんだ最近噂の魔道師様だった。  なんでもおとぎ話の中にしか存在しないような魔法の薬を開発したのだとか。その薬で不治の病により死の淵におられた国王陛下を救ったこの国の英雄だ。  今は新たな薬の開発の為に森の中にある塔の上に閉じ籠っているらしいが、今だにその素顔を見た人間はいない。たまに発せられる声も魔法で変えてるのかいつもくぐっていて年齢も性別すらも誰も知らない謎めいた存在だった。  そんな魔道師様がこの場に現れたのだ。ある意味王族よりも権力を持つ人物の登場に、その場にいた全員がざわめいたのもしようがない事だろう。 「ま、魔道師様……?!なぜこのような所にーーーー?」  慌てて腰に向けた手を下げ、形ばかりの挨拶の為に頭を下げる。王子自身は確かそこまで魔道師を敬ってはいないと以前漏らしていたのを聞いた事があるが、この魔道師に逆らってはいけないときつく言われているからこそだろう。 『なに、ちと騒がしかったから見に来ただけだ。ーーーーそれで、その娘は貰っていいのか?』 「い、いえ、この女は国外追放に……」 『平民にして無一文で放り出すのだろう?このような世間知らずな娘など国を出た途端に夜盗にでも襲われて殺されて終わりだ。それなら我が有効活用してやろうではないか。それに我が住まう塔はこの国の端にある……ほとんど国外追放のようなものだろうーーーーそれとも、我に渡せぬ理由でも?』  顔を覆うマントの隙間からギラリと殺気にも似た威圧感が放たれ、王子は腰を抜かした。 「ひ、ひぃ……!ど、どうぞ!お好きにしてくださいぃぃ!」 『よし。ならば娘よ、参ろうか……』 「えっ……」  返事をする間も無くふわりと闇色のマントに包まれ……私と魔道師様の姿はその場から消えたのだった。 *** 「ここは……?」  視界が明るくなった感じ周りを見渡すと、私はさっきとは違う場所にいた。石の壁に囲われた円形の部屋はいつも遠くから眺めていたあの塔の中なのだと、なんとなく理解する。 『……ここは我の研究所……森の奥にある塔だ」 「え」  ばさりとマントを脱いだ魔道師様の姿に一瞬言葉を失う。  くぐもった声がはっきり聞こえたかと思ったら、マントの中からは……まだ幼さの残る美しい少年が姿を現したからだ。 「ま、魔道師様……なのですか?」 「ああ、そうだ。子供だとバレると軽く見られるからな、このマントには認識阻害の魔法がかかっているんだ」  柔らかそうな黒髪をかきあげ、ルビーのような紅い魅惑の瞳を私に向けられて、思わず息が止まりそうになる。 「……あ、あの……っ、先ほどは助けて頂いて……ありがとうございました。でも、なぜ……?」  あきらかに自分より年下の美少年に目を奪われるなんてはしたないーーーーと慌ててお礼を言ったものの、面識の無い自分をわざわざ助けてくれた理由がわからず首を傾げた。 「それは……っ」  すると魔道師様はそれまで無表情だった顔を一気に赤らめ……「そんなの、決まってるだろ」と呟いたのだ。  どうしたのだろうかと、ふと王子と魔道師様の会話を思い出す。そういえば、どうせ平民として捨てるなら有効活用してやるとかなんとかおっしゃっていたような……? 「あっ!もしかして新しい魔法の開発の人体実験に私を……?か、解剖するとか?」 「なっ!そんな恐ろしいことするか!じょ……助手だ!助手!お前、確か学園でも成績トップクラスだろ!薬草学に詳しかったな?!お、俺様の今後の研究の為にも人手が欲しくてだな!もう平民になのだし助手として雇ってやろうと思っただけだ!」  なんだ、よかった。いくら助けて貰ってもさすがに解剖されるのはお断りするところだった。  ん?はて……? 「なぜ、私の学園での成績をご存知なのですか?しかも薬草学はマイナーであまり生徒に人気は無いのですが……」 「そ、そんなの……俺様が魔道師だからだ!」  なぜか魔道師様は冷や汗をダラダラとかきながらそっぽを向いた。……どうしたのかしら、風邪? 「よくわかりませんが、わかりました。どのみち公爵家からも縁を切られ行く当てのない身でございます。私でよろしければふつつかものではございますが、よろしくお願いいたしますわ」  正座をし、三つ指をついて深々と頭を下げると今度は魔道師様から「ぼんっ」と謎の破裂音が聞こえる。 「???」  頭を上げて視線を向ければ、まるでゆでダコのように真っ赤になった魔道師様が口をぱくぱくと動かしていた。 「なんか、それじゃ、嫁にくるみた……」 「ま、魔道師様?!頭から湯気が……やはり風邪ですか?!」  ドタバタと慌ただしいながらも、いつも静まり返り沈黙に包まれている魔道師の塔が賑やかになったのだった。  その後、魔道師様がまだ11歳で5つも年下だったとわかったり、なんと以前私に一目惚れしてからずっと想っていてくれた事が発覚したり、なんやかんやと数年後プロポーズされてしまったり……などなど色々あるのですが、それはまた別の話。 *** 「そういえば、あの時に研究していた新しい魔法ってどんなのだったんですか?」 「……身長が伸びる魔法……」ぼそっ  恥ずかしそうに目を反らして呟いた彼が可愛らしくてなんだか背中がムズムズします。  彼が私に告白するために自分の背を伸ばそうと躍起になっていたと知り、まだ私の胸元にした届かない彼をまるごと抱き締めたのだった。  そういえば私を断罪した王子ですが、なんと男爵令嬢の正体が詐欺師だったらしくて騙されて国家予算を盗まれてしまったそうです。最終的に詐欺師は捕まったんですが……無実の令嬢を勝手に断罪し、王家の信用を地に落とした罪で王子は嫡廃されてしまったようです。まぁ、まだ幼いけれど第2王子がいらっしゃるから大丈夫でしょう。  え?私ですか?あぁ……そういえば塔に国王陛下からの謝罪と、公爵家からも戻ってきて良いと手紙が来てましたが……私の居場所はここだけですからね♪ 終わり
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