推しの結婚

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 ファンが出来たところで何を変えれば良いのだと思った私だが、対応が変わったのは進藤くんの方だった。  研究室で朝会えば、にっこり挨拶をされる。授業やお昼で研究室を出て外で見かければ、手を振られる。夜遅くなれば、声をかけてきて小さなお菓子をくれる。  なるほどこれが進藤くんの推しへの対応らしい。笑顔で挨拶、そして差し入れ。イベントでは手を振る。私もそうだった。  よって、私もそれに準じた対応を取ることにした。  挨拶されれば出来る限りにっこり返し、手を振られれば大きく振り返す。お菓子をもらったら朗らかに礼を言い、場合によっては私もお菓子を準備しておいて、ファン──進藤くんに渡した。  数日経って、進藤くんが声をかけてきた。 「折木さん、土曜日は暇?」 「夜からバイトだけど昼間は暇だよ」 「遊びに行こー」  誘いの言葉に私は眉を寄せた。  推しを、ファンが遊びに誘うのだろうか? 少なくとも、私にはそんなことできなかったし、しなかった。  考えを読み取った進藤くんが、朗らかに私を丸め込もうとしてくる。 「ファンが個人的に推しを誘うことはないとか考えてるんでしょう。でも、折木さんのファンは今のところ俺1人じゃん? ファンイベントしようよ」 「ファンイベ……」  ファンイベ。魅惑の響き。  推しのファンイベは過去に一度だけ催されたことがある。その頃には認知されていたので、ツーショット写真撮影時に名前を呼んでもらえて泣いた。 「ファンイベ、なにするの?」 「俺、調べたの。普通なにするのか」  そう言って、スマホの画面を見せてきた。メモアプリにファンイベントという題名で、箇条書きで記されている。  質問コーナー、秘蔵VTR、歌、ツーショット撮影、プレゼント── 「これやるの?」 「全部は無理だから少しだけ。俺が考えるからさ」  進藤くんはそう言うと、一方的に待ち合わせ場所を指定してきた。私は断る理由が特に見つからず、とりあえず了承した。  なんだか私は押しに弱いなぁ。あ、推しとかぶった。と、どうでもいいことを考えながら。
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