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真相
「先日は本当にありがとうございました」
腕に包帯を巻いた岩石が、恵と純奈に頭を下げる。
「いいえ、お礼なんて。こちらこそ怪我をさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
二人は岩石以上に深く頭を下げた。
「頭を上げてください。ぬいぐるみを守っていただいたことに比べたら、こんな擦り傷、大したことないです」
暴漢二人組がチャペルに乗り込んできたあの日。マルジェリアの投げた祭壇は岩石たちに当たりはしたものの、大怪我を負ったのは暴漢たちだけだった。岩石は体格がよかったこともあり、軽症で済んだのだ。
「それにしても、鈴木さんはなかなか大胆な方ですね」
「お客様にご迷惑をかけるような大胆さは、不要以外の何物でもございません」
恵と純奈は頭が上げられない。
鈴木があの時叫んだ言葉はマルジェリアの母国語だったということ、『祭壇を二人の糞野郎に投げつけろ』と指示したこと、マルジェリアが元格闘家だったということは、後になって判明したことだ。
「岩石様はこれから警察へ?」
「はい。さすがにあんな物が出て来てしまっては、ね」
暴漢二人組は、会社に侵入していた二人組と同一人物だった。二人は、岩石の元恋人である風美の夫から依頼されて、犯行に及んだとのことだった。
そして、証拠品の一つとして押収されたカンガルーのぬいぐるみには、SDカードが入っていた。中には風美の夫が社長を務める会社が、長年粉飾決算をしている証拠のデータがあったらしい。
「ぬいぐるみが返ってきたら、もう一度こちらで式を挙げさせてもらえませんか」
「もちろんでございます。いつでもお待ちしておりますので」
岩石は穏やかな表情で頷き、そして帰っていった。
大きな背中を見送りながら、純奈は一つの疑問を口にする。
「もしかして、社長はこのことを知ってたんでしょうか?」
「このこと?」
「犯人のこととか、SDカードのこととか」
「さあ。気になるなら聞いてみたら?」
「うーん……やっぱりやめておきます」
「そうね、その方がいいわ」
「ですね」
恵と純奈は顔を見合わせ、クスリと笑った。
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