編入初日

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そんなこんながあって、編入初日。 黒いゴシック調の制服を身に纏い、都会の雑踏から離れた山奥にある門の前に立った。 以前、車でこの前を通った事があったけど、その時はまさかここが月城学園だとは思ってもいなかった。 県とか国が保有している森林公園の敷地だとばかり思っていたのに…。 木々に邪魔されて中が見えないって、いったいどれだけ広いんだよ。 茫然…というより、何を考えてこんなに広い土地に学校を建てたんだ…と呆れながらも、緑の薫りただよう敷地に足を踏み入れた。 外から見るとまるでジャングルのようだと思った敷地内は、意外な事にしっかりと整備されていた。…まぁ、それが当たり前なんだけど…。 妙に感心しながら校舎へと続くコンクリートの小道を辿り、まずはこんな時期に無理やり編入する事を許してくれた理事長に挨拶をするべく、受付の事務室にいた若い男の人に場所を聞いて理事長室へ向かった。 そして、ようやく辿り着いた目的の場所。理事長室。 目の前にあるマホガニー調の重厚な扉からは、さすがとでも言うべきか…格式高い威厳が感じられる。 ここに辿り着くまでに感じた事だけど、この学園内、相当の資金がかかっている。 総レンガ作りの建物もそうだけど、廊下の壁にさりげなく掛かっている絵や調度品が凄い。 たぶん理事長の趣味なんだろうけど、さすがお坊ちゃん学校だな…。 今までいた高校だったら、こんな物は半年もしないうちに傷物だ。 そんな事を考えながら、一呼吸おいて扉をノックした。 扉が厚いせいか、中から応えの声が聞こえない。けれど先ほどの事務員が「理事長は部屋にいらっしゃいますよ」と言っていた。という事は不在ではないはず。 少し考えたのち、思い切って扉を押し開けてみた。 「失礼します。今日編入してきた天原深たかはらしんです」 挨拶とともに理事長室に足を踏み入れると、それに合わせて奥の机に座っていた理事長と思われる人物が顔を上げた。 …よかった…、やっぱりいたんだ…。 安堵しながら改めて頭を下げようとした瞬間、目を疑った。 …は?…嘘……だろ?
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