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ナルの血の匂いでクラクラする。
駄目だと思うのに、この血が欲しくてたまらない。
「何をしているんですか!?早くナル様を建物へ!!」
「……」
「レギラ様…?」
モルが呼んでいる。姿は近くに見えるのに、声はやたら遠くから聞こえるのは何故だろう。血の匂いが、俺を狂わせる。
どうしたらいいか、考えるのも嫌だ。
ナルが死んでしまうのであれば、本能のまま動いてもいいだろう。
我慢してもしても、渇きは治まらない。
バキッ
「…っ!?」
「落ち着いてください!!」
「ああ…わかってる…。」
俺はモルに殴られ、ナルの血を吸うのを何とか踏みとどまった。
「皆が見ています。建物へ移動してください。ナル様は私が運びますので。」
「いや、俺が運ぶ。」
誰にも触れさせたくない。
…俺が近くにいる事が、ナルにとって一番危険なのは解っている。
いや、本当は解ってないんだ。
一緒にいてくれるだけで、何とかなるんじゃないかと思っていた。
好きになってもらえなくても、一緒に過ごせば仲良くなれるかもしれないと期待してた。
でも、吸血衝動に勝てなかった。怒りにまかせて血を吸ってしまった。
建物に入ってナルをベッドに寝かせたが、血は止まらない。雨で薄く見えていた赤が、どんどん濃く胸元を染めていく。
「ナル、もういいから…。止めてくれ…。」
さっきナルの中に出てきた人格がこれを起こしているなら、それに頼めば止まるのか?
「誰かは知らない。ナルの身体を使わないでくれ。もう、雨も晴れも望まない。」
都合がいいと言われればそれまでだが、俺には願う事しか出来ない。
「……貴方がナルを自由にすると約束するなら。」
「……」
自由に…、ナルが俺の前からいなくなる。
「死んでしまえば、二度と会えなくなりますよ。」
「解った。ナルを国へ帰す。」
「解りました。」
ナルでない誰かが答えると、雨がピタリと止んで、すぐに陽が射してきた。
「貴方には酷だと思いますが、ナルの血を舐めて下さい。貴方の唾液は止血の役割を果たします。血を飲めば、ナルへの執着は強くなり、貴方を苦しめる。それに耐えなさい。」
「ああ、解った。」
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