第一話

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 ひっそりと佇む、寂れた店。  斜めに傾いだ看板にはえらく達筆な字で【霹靂】と書かれている。  古ぼけた年代物の建物の中で、その看板と軒下に下がっている提灯、そしてドアにかけられている木の板だけが新しい。  ふいに焦げ茶色のドアが軋みをあげ、ゆっくりと開いた。  ちりりん  ドアに取り付けられたベルが鳴り、店の中から一人の青年が現れた。  明るい日差しに透けるゆるいウェーブのかかった金茶色の髪。くっきりとした二重の瞳は血のように赤く、見る者を惹きつける危うげな魅力を持っている。  どこかの劇団にでも入れば、あっという間に人気俳優になりそうな、甘いマスクの青年だ。  青年はこちらを見ているおかみさん達に気付くと、にこり、と人好きのする笑みを浮かべた。 「おはよう御座います。今日もいい天気ですね」  若い娘のように頬を染め、おかみさん達も笑顔を返す。 「おはようさん。エルムドさんはいつも早起きだね」 「ほんとに。働き者だしさ、うちの亭主にも見習わせたいよ」  ほんとにね、と言い合うおかみさん達に照れたように会釈して、エルムドと呼ばれた青年はドアに掛けられた板に手を伸ばした。  質屋、霹靂(へきれき)  ーー準備中。  そう書かれた板を裏返す。  準備中の文字が開店となり、その下の方にひっそりと、  【よろず、ひきうけます】  と、書かれていた。  よろず、とは色々な、という意味だ。  つまり【何でも屋】である。  質屋兼よろず屋。それがここ霹靂(へきれき)なのだった。
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