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ひっそりと佇む、寂れた店。
斜めに傾いだ看板にはえらく達筆な字で【霹靂】と書かれている。
古ぼけた年代物の建物の中で、その看板と軒下に下がっている提灯、そしてドアにかけられている木の板だけが新しい。
ふいに焦げ茶色のドアが軋みをあげ、ゆっくりと開いた。
ちりりん
ドアに取り付けられたベルが鳴り、店の中から一人の青年が現れた。
明るい日差しに透けるゆるいウェーブのかかった金茶色の髪。くっきりとした二重の瞳は血のように赤く、見る者を惹きつける危うげな魅力を持っている。
どこかの劇団にでも入れば、あっという間に人気俳優になりそうな、甘いマスクの青年だ。
青年はこちらを見ているおかみさん達に気付くと、にこり、と人好きのする笑みを浮かべた。
「おはよう御座います。今日もいい天気ですね」
若い娘のように頬を染め、おかみさん達も笑顔を返す。
「おはようさん。エルムドさんはいつも早起きだね」
「ほんとに。働き者だしさ、うちの亭主にも見習わせたいよ」
ほんとにね、と言い合うおかみさん達に照れたように会釈して、エルムドと呼ばれた青年はドアに掛けられた板に手を伸ばした。
質屋、霹靂
ーー準備中。
そう書かれた板を裏返す。
準備中の文字が開店となり、その下の方にひっそりと、
【よろず、ひきうけます】
と、書かれていた。
よろず、とは色々な、という意味だ。
つまり【何でも屋】である。
質屋兼よろず屋。それがここ霹靂なのだった。
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