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「いなくなった仲間を探している」
家の玄関で、いかにも極道という風貌の男が冷たく言い放った。サングラスの奥で輝いている瞳は重くこちらを見つめていて、あまりの圧迫感に俺は言葉を詰まらせてしまった。
「……な、仲間、ですか」
男が眉間に皺を寄せる。何かを見定めるような目線をしているせいで、言葉を誤れば殺されてしまうのではないかと思った。
「そうだ。背が高い禿げ頭の男が来ただろう」
男が放った言葉の背景で、午後六時の夕焼けチャイムが鳴っている。よい子の皆さんは帰りましょう。陽気な音楽の余韻が橙色の空気を重く震わせている。
「そ、そんな人、知りませんっ」
「嘘を吐くな。ここに来たのはわかっている。GPSの信号がここで途絶えていた」
男が声を低くすると同時、雲に隠れていた太陽が顔を出した。彼の背後から漏れる夕日を見て、後光が差しているみたいだと思った。確かに、彼の言うとおり、長身で頭のはげ上がった男はうちに来ていた。どうやら男は彼を探しているらしい。これ以上はごまかせそうになかった。
「……わ、わかりました。彼のことについてお話ししましょう。お茶でもお出ししますので、よければ上がっていってください」
男は視線を鋭くして俺を一瞥したあと、大きな溜息を吐いた。彼の息を吐き出す音が、台所で茶を用意している間も耳にこびりついて離れなかった。仲間の安否がわからない不安のようなものを纏っている気がした。
「なに飲みますか」
「いらない。早く話せ」
茶を用意している間、ずっと俺には男の訝しむような視線が貼り付いていた。無理もない、彼の仲間がここに来て以来消息を絶ったのだから。俺が何かしたと疑われても仕方が無い。
「あ、焦らないでください。彼の居場所は知っていますから」
俺が言い終わるよりも早く、サングラスの向こうで彼が目を見開いた。数時間前、禿げ男はうちにやってきた。「いなくなった仲間を探している。腕に聖女の入れ墨をした男だ」という言葉を携えて。
「これを見てください」
男にスマートフォンを差し出すと、彼は乱暴に受け取り、画面をじっと見つめた。俺が彼に見せたのは、なんでもない公園の風景だった。「なんだ、これは」「よく見てください」男が画面に顔を近づける。
今だ。俺は覚悟を決めるように心の中でそう叫んだあと、背中にガムテープで貼り付けていた三徳包丁へ手を伸ばし、彼の心臓へちからいっぱい突きだした。鶏肉に刃を入れたような感覚があり、それからリビングの静寂に彼のうめき声が割り込む。
「お前っ……!」
もしこれが最初の殺人だとしたら俺は吐き気と罪悪感のあまり行動不能になっていただろうが、もう三人目だ、彼が仲間を呼ぶ前にもう一刺しするくらいの余裕はある。刺して抜いてをするのに飽きてきたころにはすでに、男の動きは止まっていた。
男の呼吸がないことを確認したあと、彼を担ぎ、風呂場へ運んだ。そしてすでに浴槽で血を流している禿げ男、それから入れ墨男の上に被せるように投げ捨てた。
一時間ほどかけてリビングの血痕を掃除したあと、今度は掃除道具に付着した血液を洗い流した。忘れずにGPSも処理しなければならない。今度は位置情報を確認されていないことを願う。
とりあえず珈琲でも飲んで、今後どうするかを考えよう。そう思っていたのに、電子ポットのスイッチを入れた瞬間、インターホンが鳴った。どうせまた、借金取りがやってきたのだろう。
確かに借金を返さない俺も悪いが、あんな高圧的に取り立てに来なくてもいいじゃないか。奴らのせいで俺の近所づきあいは最悪だ。変な噂まで流れて、堪ったもんじゃない。
「は、はい……?」
玄関の扉を開けると、そこにはいかにも極道という風貌の男が立っていた。
「ここでいなくなった仲間を探している。スーツにサングラスをした男だ」
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