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「すみません。ちょっと……」
そう見上げてくるユーディー様と視線が合うと、顔に熱が帯び、言葉を失くしてしまった。
青い瞳。少し低い鼻。ぷっくりとした唇。白い肌の小さな顔。
触れたい! その襲いかかる衝動を必死に抑え込む。
そんな葛藤も知らないユーディー様が僕の手に触れてきた。慌ててその手を引っ込める。すると困惑した表情を見せた彼女が申し訳なさそうに懇願してきた。
「はぐれてしまいそうなので、手をお借りしたいのですが」
「しかし、手を取り合うというのは……」
貴族様たちの中ではそれは重要なことを意味する。魔力を持っていれば尚のことと聞いている。それを言い訳に彼女に近づかないようにする。でなければ、理性を抑えられそうにない。
「わたくしたちは夏の休暇前に手を取り合っていますわ」
そうだった。剣舞会のあとも。なのにここで断ると、ヘンな疑いを持たれてしまう。
そう観念して、大きく息を吸い込み、彼女に悟られないように触れたいという気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと手を差し出した。
「ありがとう存じます」
頬を染めたユーディー様の手が優しく触れてくると、手指を絡めてきた。
ドキリとしつつも、さりげなく指に力を込める。
僅かの温もりと手汗を感じる。ずっと欲しかったその感触に高揚感が昂る。
「で、では、行きましょうか。ゆっくりと歩きますので」
「はい。お願いいたします」
いつもより歩幅を短く、出来るだけ時間をかけて進む。なるべく長い時間こうしていたい。ずっとこうして歩いていたい。
時々俯くユーディー様をチラ見しながら、このまま森を彷徨っていたい、そう思ってしまった。
お互いに言葉を交わすことなく、閑静とした川沿いを歩んで行く。
そよぐ風が火照った顔を撫でる。気持ちいい。ユーディー様と手を繋いでいることがすごく嬉しい。
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