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でも、歩む足を止めなければ、この心が満ちていく時間も終わりを告げてしまう。
そう。森の出口が前方に見え始めてきたのだ。
ゆっくりとした足取りが自然と更に遅くなる。
放したくない――そう思わず手指に力が入ると、どちらが声をかけたわけでもないのに、お互いに足を止めた。
隣りにいるユーディー様へ目を向けてみると、彼女もこちらを見上げていた。
空いている手を伸ばせば、簡単に彼女を抱きしめられる。もう一度彼女を胸の中で抱きしめたい。そう腕が動こうとする。
しかし、彼女にはユウキ様という婚約者がいるのだ。そう言い聞かせ、拳を固める。
ユーディー様から離れないと。
彼女から手を放さないと。
でも、絡んでいる指が気持ちに反して、更に強く握りしめてしまう。
お互いに立ち尽くしたまま沈黙が続く。
おそらくどちらかが口を開いてしまうと、ユーディー様と離れてしまう気がした。
潤んだ青い瞳に僕の顔が映っている。
ユーディー様がほしい。
人に対してそんなことを思ったのは初めてだった。
気付けば無意識に腕が伸びていた。もう僕の意志では抑えられなくなっていた。
ユーディー様も空いている手をおもむろに添えてくる。手指が絡むと同時に、僕はそっと彼女を引き寄せた。まるで帯のように軽い彼女が、僕の胸に飛び込んでくる。
手指を放した腕で彼女を抱きしめた。ユーディー様も僕の腰に手を回してくる。
幸せだ。手放したくない。
そう思った瞬間――これがユーディー様が言っていた『気付けば想い人になっている』ということだとわかった。
僕はユーディー様が好きだ!
と、彼女を愛していることを認めた。
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