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でも、そのことは口に出来ない。彼女にはユウキ様がいるのだ。
そうわかっているのに口が開いてしまう。
「ユーディー様……」
はい――と、耳元で返事が囁かれる。でも、名を呼ぶ以上のことは出来なかった。ただ強く抱きしめ、柔らかい身体を押し付け、僕の高鳴る鼓動を伝える。
あなたを愛しています!
と。
しかし、この気持ちには気づいてほしくない。彼女を困らせたくない。それでも、知ってほしかった。
「ユーディー様……」
「はい」
「ユーディー様」
「はい」
不意に、今度は彼女が胸を押し付けてくる。鼓動が聞こえる気がした。
忘れない。忘れたくない。
柔らかい体も。長い髪も。細い首も。すべすべとした肌も。彼女の香りも。
そう脆く感じる身体を手探る。時折ユーディー様の口から吐息が漏れる。何度も僕の名を口ずさむ。
身体をよじらせるユーディー様のそのすべてを忘れたくない。そう手弄っていると、ピクンと彼女の身体が伸びた。そのことで正気に戻り、彼女からゆっくりと手を放し、上目遣いの顔を窺った。
頬を赤らめ、とろんと溶けてしまったような表情をしている。思わず吸い込まれそうになっていると、背伸びするユーディー様が鼻の頭をすり合わせてきた。そして、お互いに目をつぶって黙ったまま額を合わせた。
あなたが好きです。
その僕の想いはどこまで届いただろう。
しばらくして瞼を開けると、ゆっくりと体を離した。
ユーディー様が恥ずかしそうに、肩からずり落ちているケープを持ち上げる。
「ギル様。身なりを整えたいので、しばらく背を向けて頂けませんか」
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