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平安時代中期、いわゆる平安貴族と言われる者たちは沢山の妻を持っていた。
そのうちの1人、右大臣もそうであった。
右大臣、隆経には正妻、北の方が居った。
この北の方というのが、今の天皇の末の妹だ。
天皇と義母兄妹ではあるが、妹を娶った右大臣は天皇の親族となる。
つまり、時の権力者の1人だった。
北の方はたいそう美しく、お淑やかで、お琴や歌、笛など、他の誰よりも上手でした。
しかし、この北の方は体が少し弱かったのです。
結婚してしばらくすると、お子ができました。
女房と呼ばれるこの家の女性の使用人達の内の1人が
「隆経様、北の方様にお子ができました。おめでとうございます。」
それを受けた隆経は
「まことか、ああ、よくやった。めでたい、めでたい。」とたいそう喜び、小躍りしそうな程でした。
しかし、体の弱かった北の方は出産時、命は落とさなかったものの、かなり体力を使ったので、その後は良く体調を崩すようになりました。
以前よりその期間が長くなっていました。
そして、2人の間に生まれた赤子は女の子でした。
その子は、母君に似てとても可愛らしい姫でした。
父君も母君もたいそう大切に、可愛がっておられました。
「この子は、そなたに似ておるゆえ大人になればさぞ、美人に育つ事だろう。」
と言って目に入れても痛くないとばかりに、暇があればずっと姫を見ていたのでした。
「そうでしょうか、口のあたりは貴方様に似ておりますよ。」
と母君も姫を見ては微笑んでいた。
そして、姫は2人の愛情を一身に受け、それはそれは美しく、優しく成長しました。
母君の体調が良い時は歌や琴のお稽古をしてもらったり、沢山のことを母君から学びました。
そんなある時の事。
母君は体調が悪いことが多かったため、いつ自分の身が危うくなるかを危惧して、形見を姫君に渡しました。
それは、それは小さな勾玉のついた数珠でした。
母君がお嫁に来られる前に、兄の天皇陛下から母君が頂いた物だったのです。
床に姫君を座らせ、
「これへ、そなたにこの数珠を授けます。何かあっても、決して生きることを諦めてはなりませんよ。何かあった時は、この数珠を母と思いなさい。強く生きるのです。いいですね。」
と言いました。
幼い娘がこの事をどれだけ理解しているかは分からない。
それでも、姫は「はい。」
と答えた。
母君は安心してまた床に着いた。
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