1.誕生

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平安時代中期、いわゆる平安貴族と言われる者たちは沢山の妻を持っていた。 そのうちの1人、右大臣もそうであった。 右大臣、隆経には正妻、北の方が居った。 この北の方というのが、今の天皇の末の妹だ。 天皇と義母兄妹ではあるが、妹を娶った右大臣は天皇の親族となる。 つまり、時の権力者の1人だった。 北の方はたいそう美しく、お淑やかで、お琴や歌、笛など、他の誰よりも上手でした。 しかし、この北の方は体が少し弱かったのです。 結婚してしばらくすると、お子ができました。 女房と呼ばれるこの家の女性の使用人達の内の1人が 「隆経様、北の方様にお子ができました。おめでとうございます。」 それを受けた隆経は 「まことか、ああ、よくやった。めでたい、めでたい。」とたいそう喜び、小躍りしそうな程でした。 しかし、体の弱かった北の方は出産時、命は落とさなかったものの、かなり体力を使ったので、その後は良く体調を崩すようになりました。 以前よりその期間が長くなっていました。 そして、2人の間に生まれた赤子は女の子でした。 その子は、母君に似てとても可愛らしい姫でした。 父君も母君もたいそう大切に、可愛がっておられました。 「この子は、そなたに似ておるゆえ大人になればさぞ、美人に育つ事だろう。」 と言って目に入れても痛くないとばかりに、暇があればずっと姫を見ていたのでした。 「そうでしょうか、口のあたりは貴方様に似ておりますよ。」 と母君も姫を見ては微笑んでいた。 そして、姫は2人の愛情を一身に受け、それはそれは美しく、優しく成長しました。 母君の体調が良い時は歌や琴のお稽古をしてもらったり、沢山のことを母君から学びました。 そんなある時の事。 母君は体調が悪いことが多かったため、いつ自分の身が危うくなるかを危惧して、形見を姫君に渡しました。 それは、それは小さな勾玉のついた数珠でした。 母君がお嫁に来られる前に、兄の天皇陛下から母君が頂いた物だったのです。 床に姫君を座らせ、 「これへ、そなたにこの数珠を授けます。何かあっても、決して生きることを諦めてはなりませんよ。何かあった時は、この数珠を母と思いなさい。強く生きるのです。いいですね。」 と言いました。 幼い娘がこの事をどれだけ理解しているかは分からない。 それでも、姫は「はい。」 と答えた。 母君は安心してまた床に着いた。
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