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一方、その頃時春はと言うと。
帰りの道中も、屋敷に帰ってからも涼姫の事が頭から離れません。
最近なんだかぼうっとしている時間が増えた若君を訝しんだ、乳兄弟は声をかけました。
「若様、最近何かありましたか?なんだか様子がいつもと違う様に見えますが。」と言われてもまだぼうっとしている。
「若様〜?」
「若様!」
「お〜い、時春様?」
と何度か声をかけてやっと我に戻った。
「あ、宇治春。呼んだか。」
「呼んだかじゃありませんよ、何度呼んだ事か。何か有ったんですか?」
「いや、あったといえば、あったんだが。」
「なんです、その歯切れの悪い感じは。」
「いや、ある者が頭から離れなくて。」
「はっはーん、それは恋煩いと言うやつですね。若様、もう大人の仲間入りですね。」
などと茶々を入れる。
「この間の花見の時からですね。」
「なぜ、わかったのだ。」
「いや、様子がおかしくなったのはそのくらいからでしたから。」
「そんなにおかしかったか?」
「ええ、普段の若様ならあり得ないくらい、ぼうっとしてましたからね。」
「そうか、気をつけよう。」
「私等まだ子供ですけど、若様はませてますね。」
と茶化してくるので、
「うるさい。」
と拗ねた。
そういうところはまだまだ子供だ。
「若様の初恋が実るよう私は祈っておきますよ。」
宇治春が言った。
(そうか、これが初恋か。)
若君はこの時初めて恋心を自覚しました。というより、自覚させられたと言うのが相応しいかもしれない。本人はあまり分かっていない感じだったが、宇治春はその辺に関してまだ、若君よりは精通していた。その宇治春が、ませてると言うのはいかがなものかと言われそうだが…
それからというもの、若君はもっと立派になって、いつかかの姫を迎えたいと思い、一層日々の勉学に励んでいた。
これを見た父、左大臣と母北の方は恋をしているとは露知らず。勉学に励む息子を見て、自分の跡を継ぐ気持ちがいっそう高まったと、えらく感心していました。
そんなこんなで、若君は沢山の知識を身につけ、努力の末、急成長を遂げたのでした。
宇治春は横目にニヤニヤしながら一緒に勉強するため、否応なしに、一緒に賢くなっていくのでありました。
こんな事がこちら側で起こっていようとは、涼姫はまったく考えもしない事でした。
姫君の方はそちらもそちらで、えらく大変なことになっておりました。
3日間の祈祷が終わり、お屋敷に帰ると一目散に母君の元へと駆け寄りました。
「母上様、母上様。涼が戻りましてございます。入ってもよろしいですか?」
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