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その時、助ける方法は無いのだと妙に納得してしまったのです。
そして、父君のお部屋に呼び出され、
「涼よ、母上はもう。これまでやも知れぬ。今までは床へ入る事を禁じておったが、今は許す。
もういつ何が起きてもおかしくない。最後は皆で看取ってやろう。母上に付いていてあげなさい。ずっとそなたの顔を見たがっておった…」と言われ、
「はい…」と返事をしたが、涙があふれて止まらない。
その話のすぐ後、姫君は母君の床へ飛んでいきました。
「母上様っ。」と声をかけるが、返ってくるのは荒い呼吸のみ。
熱もあり、額には汗が光っています。
姫君は泣きながら看病を続けました。
その間ずっと側を離れず、一晩中看病をしておりました。
熱も下がらず荒い呼吸が続くので、姫君は母君からもらった勾玉のお守りを母君に握らせました。
「母上、これを持っておられれば、きっと良くなられますから。どうか諦めないでください。私を置いていかないでください。」
泣きながら、叫ぶように話しかけました。
ですが、やはり良くなられる気配がありません。
それから数日後、その日は少し落ち着かれたので、姫君と話をしたいと言われ、「聞こえるように、頭元まできなさい。」と言われ姫君は頭元まで寄っていきました。
すると、「涼、私はもう長くありません。そなたも、覚悟を決めねばならぬ。そして、どうかこの母を許しておくれ。」「何故ですか?」と姫君は問うた。
「幼い我が子を残してゆくこの母をどうか許して欲しい。そしてそなたには酷な事だが、決して私の後を追ってはならぬ。そなたには父上が居る。父上を1人にしてはならぬゆえ…
立派に育って、父上を支えてあげなさい。女子として、出来ることをなさい。それが父上の為になる。良いな。」
「はい。」
と姫君は素直に母君の話を聞いておりました。
父君は隣でなんとも言えない顔をして居られました。
「涼、それと、このお守りはそなたが持っておれ。私はそなたを守ってはやれぬ。だが、このお守りは私の代わりにそなたを守ってくれよう。このお守りを母と思って持っていなさい。」そう言って母君が持っていたお守りをまた姫君の手に握らせました。
姫君は涙が溢れてきて泣いておりました。
すると、「涼、どうか笑っておくれ。そなたの笑顔は華やかで、いつも元気が出るのじゃ。泣いた顔はそなたには似合わぬ。」と言って腕を伸ばして涙を拭いてくれました。
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