エストレリャ

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「これを持って、テーブルを 8の字に回り、指定場所に グラスをひとつずつ置いて いってください。 トレーは持つというより、 指で支える感じで」 「はいっ」 チーフからはバニラの匂いがした。 俺は女手のない家庭で育った。 毎日の食卓 小学校の給食 中・高校時代 文化祭では模擬店のウェイター 配膳は得意分野だ。 グラスの縁には手を触れず、 三本指で下方をつかみ、 二本の指でバランスをとりつつ テーブルの位置を確認。 音をたてず、液体を揺らさず、 垂直にそっとグラスを置く。 「はい。結構。合格です。 これ、制服。テーブルマナーは マスターしといてください。 それと、全メニューとメニュー 入力 マニュアル冊子です。 レシピは参考まで…」 「ところで、星野一輝さん」 「フルネーム呼ばなくても… チーフでいいです」 「チーフ、セフレいます?」 「ウチはスフレありません」 俺は目的があると頑張れるタイプ。(だと思う) 今の目標は〈星〉より 〈星野王子さま〉 「関くん、3番テーブル、 君ファンの常連さん。 行ってあげて」 素早く情況を把握して決断し、 ホール係りに指示を出すチーフ。 グッ ジョブ! しかし… (メンパブかよ…) 「チーフ!クレームっ。 料理に異物混入っ」 先輩の山田さんが厨房に飛び込んで来た。 「キッチンっ!何入れたっ?」 「指」 「ぐえっ、料理長、悪い冗談は やめてくれっ」 「よろしゅうに」 賄いの全てが〈実験作〉の 副料理長に任されて 「ウェイターっ!」 と、語気荒げる客のもとへと チーフは、キッチンのスウィング ドアを開けていざホールへ… 懐かしの洋画のガンマン みたいだな。 「これは、明らかに ゴキ■リの触角」 「失礼いたしました。 高級食材の車エビの触角が 入り込んでしまい 申しわけございません。 お連れさまにデザート 一品無料提供で、お許し いただければと…」 にこやかに、すみやかに、解決案を提示できるチーフはマネージデキる上司だ! ああ、俺は早く彼とデキたい。 「チーフっ!」 そこに今度はまた同期の関さんが…
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