エストレリャ

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「星月夜に、突然ですが キツネになって、メキシコの ジャングルで、巨大な 黒ヒョウに因縁(いんねん) つけられてる夢を見てました。 黒ヒョウにはちゃんと 豹柄があった」 「雹も雨も、止んだ。 星がでてる。ねえ、日ケ原 『エストレリャ』の今日の 最後の客、覚えてる?」 「ええ、常連高校生と 金髪の友達(ダチ)のペア」 「前から黒髪の子が 気になってた。昔の僕に 似てるって思ってて…」 いつも 何かを探して… 誰かを待って… でも きっともう 探さなくても 待たなくても いいんだ… 「見つけたみたいですよ 〈星〉を 今夜は明るい表情 してましたよね」 「うん」 京介…僕も もう 探さなくていい? 「俺、チーフに恋人を忘れろ なんて言いませんよ…」 今なら分かる 京介… あなたが急いでたのは きっと… 「そのかわり…」 僕を急(せ)かさない ためだったのだと… 「『星のように 急がずに しかも 休まずに いてください』」 あなたは僕と 生活を始めようと していたのだと… 「あ、いや、俺が言ったんじゃ ないです。ゲーテですって、 たぶんゲーテ。あ、流れ星!」 星が渡っていく… 「…渉」 「一輝さん」 「なっ、うあ、日ケ原っ、 噛みつくなっ」 「いや、なんか、ハード(確か) なのが好みかと」 「明日は地獄の日曜日だぞっ。 たいがいにしとけっ!」 「はい、はい。じゃあ、 おやすみのキス」 俺はチーフのおでこにチュッ。 瞼に、唇に、 噛んじゃった胸にも。 上掛けに潜り込んでの お腹からの…そことそこと そことここにも… おやすみのキス。 「おやすみ、ケースケ (天敵だけど)」 (おやすみなさい。 京介さん。 強敵だけど) 「ちょっ、日ケ原…日ケ原っ? いつまで…そこで…」 「ここ寝つかない感じなんで 悩ましっス。あららららっ、 おやすみのキスなんだのにー」 「明日は早出だ」 「え?俺、遅番ですけど」 「明日は通し。今日の暴風で 店の周りは落ち葉と枝で 埋まってるから朝一で機動的な 対応しなきゃ…」 「あ、だったら俺、掃除も 得意分野ですから お任せあれっス」 「店内は、ルンバとブラーバ バディに任せてるけど、外周に 関しては助かるよ」 一緒に寝て、一緒に起きて、 一緒に仕事場に行くんだ。 ニヤニヤが止まらない。 「日ケ原、言い忘れてたけど、 この業界、基本休みないから。 交代でとるけどね」 お休み無し? 毎日チーフに逢えるんだ まあ、いっか。 「おやすみなさい」 「おやすみ」
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