放っておけない

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秀人の静かな怒りが手のひらを通して伝わったのか、和花が震える声で秀人に言う。 「佐伯さん、本当にすみません。ご迷惑をおかけして……」 小さな声は耳を澄ませないと聞き逃してしまいそうで、秀人はきちんと和花に向き合った。 「いや、僕が送らなかったから。怖い思いをさせてしまって申し訳ない」 「いいえ、佐伯さんは悪くありません。私がしっかりしていないから……」 言いながら、和花はみるみるうちに大粒の涙が滲み声もなくポロポロと泣きだしてしまった。 「橘さん?」 「……何で私こんなんなんだろう。学生のときも今回も、好きでもない人に迫られて、断っても私が思わせ振りな態度をするからだって言われて……。私が悪いんですか?私どうしたらいいんですか?」 三井が和花に放った言葉は和花の心にグサリと傷を付けていた。来客に挨拶をすること、丁寧に対応することは社会人として必要なことだ。失礼のないように対応しているだけなのに、和花は自分のどこに落ち度があったのかまったく分からない。それとも、ツンと冷たくあしらえばよかったのだろうか。例えそうだとしても、和花にはそんな常識のない態度は取れる気がしなかった。 「橘さんは悪くないですよ。勝手に勘違いするヤツが悪い。橘さんはよく頑張っています。それは上司である僕がよく知っている。だからそんなに自分を責めないでください」 秀人はハンカチを取り出しそっと和花の涙を拭う。それだけでは溢れる涙は止められなかった。
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