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しばらくして返ってきた返信メールを読んで和花は固まった。 【請負社員の文具は各社が準備するものです。初回分は許可しますがそれ以降は購入しなくて結構です。】 丁寧なビジネス文章だということはわかる。 ただ、“結構です”という言葉が冷たく感じられ、どうにも否定された気分になって少し落ち込んだ。もちろん秀人は何も悪くない。“結構です”という日本語は敬語なのでこの場では正解なのだ。 確かに請負社員は何でも自社で用意するという決まりになっている。ただ林部がチーム長のときは、一緒に働いているんだからという理由で小さな買い物は許してくれていた。そんなあたたかさが和花は好きだった。 それに、と和花は思う。 いくら仕事とはいえ恋人なんだから少しはくだけた文章でもいいのに、などと不満を持つ。秀人が真面目なだけなのか、和花が恋愛に現を抜かしているだけなのか、今の和花は冷静に判断できないでいた。 やはり秀人を好きなのは自分だけなのだろうか。林部からもなぎさからも、“和花を頼む”と言われたから、真面目な秀人はそれに従って無理やり付き合ってくれているのではないだろうか。 考えれば考えるほど不安が募る。 こんなメールひとつで気分が浮き沈みするなんて思ってもみなかったことだ。仕事なんだからと割りきりたいのに私情を挟んでしまう自分にも幻滅した。 【すみませんでした。では請負社員の分は手配しないでおきますね。】 和花はモヤモヤしながらも、努めて自然に返信をする。だがそのメールに返事はこなかった。 何かを期待していたのだろうか。 秀人から優しさや思いやりの言葉、なにかひとつでもあれば気分は晴れたのかもしれない。心のモヤモヤは和花に不快な感情をもたらす。
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