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「怖いです、彼らが。ジーンリッチではなく、実家も裕福ではない私を、三ヶ月前のようにまた彼らが踏みにじるのではないかと。そう思ってしまって」  ――三ヶ月前の全国コンクール。弾き終わった直後、これは優勝できる。と、私には確かな手応えがあった。でも、結果は一位に大差をつけられての二位。  納得行かなくて悔しかった。だけど気持ちを切り替えようとしていた、その矢先。一位の演奏者が審査員から票を買収していたことが明らかになった。不正をした出場者はジーンリッチだった。  再審査の結果、私は一位になった。けれども、ただでさえジーンリッチが多かったコンクールで、ジーンリッチを優勝させようという力が働いた事実はショックだった。ピアノへ向かう心を惑わせるくらいにしんどい。おまけに、『才能を持って生まれたわけではないのに』と、楽屋で件の出場者に煽られた悔しさも忘れられない。  俯く私に、先生は優しげに声をかけてくれる。 「男性ではないから。一般家庭の出身だから。ジーンリッチではないから。今までだって大変だった中頑張って成果を出して来た泉菜さんには、演奏家の道を諦めてほしくないのです。もっと自信を持ってください。あなたはまだ悩みを乗り越えて成長できる。期待していますよ」 「……はい」  先生の励ましは嬉しい。  けれど、私はただ頷くことしか出来なかった。  楽曲を理解して、弾いて、評価される。ただそれだけに集中したいのに、なかなかどうして、できないのだろう。  ジーンリッチが、私をかき乱す。
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