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そんな不思議で気味のわるいことが、2回もつづいたので、わたくしは、次の日に、一番お屋敷に長く勤めている女中に、昨日の出来事を話して聞かせました。
そうすると、女中も幼女の声を聞いたことがあるようでしたが、その正体は全くわからないというような返答が返ってまいりました。薄気味悪いが特になにか害があるわけじゃなし、暫くは様子を見ようと、その話はそれ以上せずに忘れることに努めることに致しました。そのあと、ぱったりとそういうことがなくなり、
明人様が27、成人様が22、君人様が17、奥様が家を離れてから、5年の歳月がすぎ去っておりました。
成人様も明人様と同じように、稼業のお手伝いをされるようになり、屋敷を離れることが多く、
君人様は、高等学校に通われ、お友達にも恵まれているようで、よく屋敷に招いては楽しそうに談笑している姿が多くみられるようになりました。昔の寂しそうな態度をすることが少なくなり
使用人達も、少し安堵していたのを覚えております。
君人様は、上のお二人のお兄様とは少し異なった外見と、性格の持ち主であったように思います。
上のお二人の外見は、陳腐な言葉で言えば、人目をひく華やかな容貌とでも申しましょうか?特に明人様は一時期モデルのお仕事をされたりと、芸能関係にも沢山お知り合いがいたことを記憶しております。
成人様は派手なことはお嫌いだった印象はありますが、ご本人がなにぶん目鼻立ちのはっきりとした面立ちで、近隣の女子学生が屋敷の周りをうろつき、恋文を渡そうと画策したのを何回も拝見しました。
そして、お二人ともその外見と釣り合うように、気性もなかなか激しいところがおありで、好き嫌いがはっきりしていらっしゃいました。
それに比べ、君人様は、これと言った特徴のないお顔立ちで、可もなく不可もなく、一度みただけでは、忘れてしまうような凡庸さ。性格はいたって温厚で声を荒げたり、癇癪を起こすようなことは一度も見たことはありません。
わたくしは、君人様がまだ幼い頃に奥さまが、
家を離れて愛情不足にお育ちになっていたのを目の当たりにしておりましたので、どんな風になってしまうのか、人一倍心配しておりました。
それにご兄弟同士の年が離れていることもあってか、
あまり仲良くお過ごしになっているところはみたことがありませんでした。ようやっと最近、明人様と成人様が一緒にお仕事をされることになってお二人が行動を共にすることが増えたように感じる程度で、
相変わらず君人様は、蚊帳のそとにいらっしゃいました。
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