勝負下着と虚無男

　パンツ忘れたみたい、と彼女からLINEが来た。彼女と言っても別に本当の彼女ではない。彼女に本当も嘘もないんだが。二日前に会った時にホテルに忘れていったんだろう。多分。

　少し潔癖症ぎみのあゆみはいつも行為が終わると、替えの下着に着替える。わざわざ持ってきているのだ。脱いだのをもう一度つけたくないからだという。荷物も増えるのによくそんなことするなあと思っていたら、案の定忘れていった。

　ホテルに確認してくれと言うから、仕方なく色や特徴を聞いた。私の一番のお気に入りなのに何も覚えてないの、と言われた。それがお気に入りだろうがなんだろうが、いちいち下着なんて覚えていない。
　大体なんでそんなものを俺と会う時につけてくるのか。彼氏いるくせに。

　ホテルに問い合わせると、やはり部屋に忘れていたらしい。忘れ物をしたのなら、電話くらいくれればいいのにと思ったが、そういったことはしていないようだ。
　気になってネットで調べてみると、ホテルにもよるがそういった対応が普通らしい。フロントで連絡先を記入していても、宿泊者は泊まったことを知られたくない場合があるから例え連絡先が携帯電話でもしないみたいだ。
例えば不倫とか。なるほどなあ、と思う。確かに彼女も急に連絡をもらったら、困るよなあと思う。まあ、予約するのはいつも俺だから、電話が来るとしたら俺なのだが。

　結局、三日後に予約を入れていたのだが、一週間後にまたそこで彼女と会うからその時にホテルで受けとると伝えた。三日後の予約の時には何も触れないように、と電話口でスタッフに釘をさした。
　なぜか？
　三日後に会うのは京華ちゃん。一緒にいる時に他の女のパンツなんて渡されたら、たまったもんじゃない。

　横にいるのはいつも同じ女、というわけにはいかないから、スタッフは俺に「いつもありがとうございます」なんて言ってこない。そんなことをしたら、女の子にいつも来ているのがばれてしまう。ホテルのスタッフ、さすが気が利く。俺だったら口が滑って、お客さんを怒らせるのが目に見える。
　こんな風に俺はそのホテルを週に数回は使っている。コロナ禍で少しでも多くの予約が欲しいのだろう。今まででは考えられないような値段で、部屋が売りに出されている。その中でも一番安いテレワークプランを俺はいつも使っている。テレワークなんてしたことがないが。
　そして私製領収書の宛名を会社名にしてもらい、会社に経費として精算してもらう。
　我ながらゴミ人間としか思えないが、この時勢に感謝を述べたい。

　でも、人生このままでいいのか、と自分でも思う。何をしても平均以上に出来てしまうせいで、大して努力もせず今まで生きてきた。容姿が少し人より優れているから、女にも困らない。
　ただ、虚しさがいつも心のどこかにある。女でそれを埋めているつもりだけれど、埋まっていないし、日に日に増しているような気がする。根本が変わらないから。
　そんなことを思いながらもスマホの上で指は軽快に動き、また別の女の子にメッセージを送っている。

　気が向いたら、そのホテルで働いてみようかな、なんて思っている自分がいたが、気づかないふりをした。