貝殻さがし

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貝殻さがし

 中一の夏。近所の砂浜で俺は貝殻を探す。スポーツドリンクを飲みつつ、せっせとなるべく綺麗な貝殻を探す。夏場はこの三年毎日同じ作業をしている。中一にもなってと我ながら思うが、約束したんだ。その約束は破ることはできない。 「沙織ちゃん、引っ越しするんだって」  三年前、母から同級生の引っ越しの話を聞いたとき、唐揚げを掴んでいた箸をつい落とした。 「嘘でしょ?」  俺は母に確認するが母はクスクスと笑いながら首を横に振った。 「宗介、沙織ちゃんが好きだもんね」  好きどころじゃない。その日、俺は沙織ちゃんに告白してOKをもらったんだ。その告白成功の日に引っ越しの話を聞かされるなんて……。  翌日、学校についた俺は一二もなく沙織ちゃんに確認した。 「沙織ちゃん、引っ越しするの!?」  昨日、恋人になったばかりなのに……。ついそんなことも付け加えたくなったが俺は抑える。  透けるような白い肌に艷やかな長い黒い髪。黒目がちの澄んだ目。海沿いのこの村には相応しくない沙織ちゃんは、コクンと頷いてみせた。 「本当だよ」  俺は目の前が真っ暗になる気がした。 「でもね、宗介くんのことはちゃんと好き。会いに来るからさ。私のために綺麗な貝殻探して。宗介くんがその約束忘れなかったら、きっと私は会いに来る」  そんな約束……。とは思ったが中一になった今でも沙織ちゃんとの約束を信じて、貝殻を探している。昨日より今日。今日より明日。より綺麗な貝殻を探して、俺の夏は終わる。  家族も何も言わないが俺の部屋は貝殻だらけとなった。沙織ちゃんが引っ越したあとに突然に貝殻を探し始めた俺を憐れんでのことかは余計なことを言われないのは助かる。  いつまでも初恋を追いかけている俺は俺が思うよりずっと女々しいのかも知れない。
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