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そろそろ「冗談だよ」って言って笑ってくれてもいいのに、何でそんなに引っ張るんだよ。それならちゃんと言ってくれればいいのに。
お前が言ってくれれば、覚悟は決めているのに。
……覚悟、であって、気持ちは正直よく分かんないんだけど。
でも、お前と居るのはいやじゃなくて。今日だってお前が泊まっていけよって言えば泊まっていくのに。まぁ、泊まったからと言って何があるとは思えないけど。(ないよな?)
「香川」
意識し過ぎだ。今日は暑いから、何て言い訳出来ない程この部屋はエアコンで快適なのに、頬が熱い。
全ての感情を乗せたみたいな声で呼ぶから、目が離せない。
もう皿の上には何も残っていないから、誤魔化す事も出来ない。
「麦茶飲む?」
ふわりと笑った瞬間にさっきまでの濃厚な空気が消えた。
三田村は視線を外し、何も言わずに2人分の食器を重ね、両手で持ち立ち上がった。
返事を聞かずにキッチンへ行くと、冷蔵庫から麦茶の入ったガラスポットを取り出し、グラスに注ぎ入れる。
グラスを2つ持って戻ってきた三田村はさっき「結婚しよ」と言ってた事なんて忘れたという顔をしている。
目の前に置かれたグラスに、オレは短く礼を言った。
多分、流してしまおうと言う事なんだろう。さっきのは試していただけかも知れない、どこまでオレが付いてこられるか。
オレが何も言わないから、話題を変えるつもりなんだ。そして、この話はきっと二度としない。
その方がお互いの為だって、オレも分かるけど。
でも、覚悟、ちゃんとあるから。
「順番おかしくないか?」
はっとした顔で三田村はオレを見つめた。きっと蒸し返されるなんて思ってなかったのだろう。
「順番、とか、気にするんだ」
ぎこちない笑顔。何だよ、さっきまでの余裕はどうした。
でも、オレの余裕もない。多分こっちの緊張感が三田村に伝わってる。
「気にするって言ったら?」
挑発するように睨むと、三田村はふっと力を抜いたような顔で笑った。
「一緒に、住も……?」
「う、ん…………ん?」
「実はちょっと前から気になってる物件あるんだよね」
「は?ちょっと待て」
「ここの契約まだ残ってるし、急がなくてもいいんだけどさー、香川が乗り気なら引っ越しちゃってもいいかな~」
「じゅ、順番て、オレ、言った……!」
ん?何てとぼけた顔で首を傾げる三田村は愉しそうに笑ってる。
「うん、一緒に住むのOKならもうそれは事実婚ていうやつじゃないの?」
「色々すっ飛ばしてるだろ……!」
「別に何回言ってもいいけどね、香川結婚しよ?」
「だから」
「うん、結婚して?」
「……断る」
「は?!」
「と、当然だろ?!バカかお前、今までお前が付き合ってきた女子と一緒にすんなよ、クソイケメン!そんな顔で結婚しよなんて言われれば誰でもOKすると思うなよ!!」
言いたい事を一気に捲し立ててはみたものの、三田村は聞いているのかいないのか、涼しげな表情を崩さない。
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