38人が本棚に入れています
本棚に追加
「一緒に住むのは?」
「え」
「一緒に住むのはOKしたよな?」
「……それは、まぁ、いいけど」
「いいんだ」
おい、何で呆れた顔するんだよ。
「だって、別にオレにとってはデメリットって少なそうだし、お前なら同居しても、いいかなって」
「同棲な」
「ルームシェア」
「香川は言ってほしいんだ、それは嬉しいな」
満面の笑みは菩薩の笑顔なんかじゃなくて。それは分かっているけど、でもオレもそろそろ友達の顔をするのは面倒くさいって思ってたんだ。
面倒だけど、オレ達はそろそろ次の……何て名前を付ければいいのか迷うけど、でも今の形じゃない所へ進んだ方がいいと思うんだ。
「大事にするから、結婚して、香川」
はぐらかしている訳ではなく、あくまでこいつは結婚に拘るのか。
それでも真摯な眼差しと熱の籠った言葉に傾きそうになる。
「しない」
誤魔化されないぞ、という強い意思で否定する。
せめて付き合ってから。いや、せめて、気持ちを伝えてから言うもんじゃないのか?
これお見合いか?お見合いなら結婚しようそうしようとかって流れになるのか?した事ないから分からんけど?!
「結婚すれば色々飛ばしても、飛ばした事にはならないんじゃないかな?」
「?」
「1を10回足しても10だけど、1と9を足しても10なんだよ」
「……」
言わんとする事は分かる。ていうか、それは屁理屈なのでは?
そうか。恥ずかしいのか?
プロポーズしてきたのに、告白するのが恥ずかしいなんて矛盾した男だな。まぁでも三田村にもかわいいとこ、あるじゃないか。
「お前、斜め上な事考えてるだろ」
「失礼だな、そんな事ないし、お前だろおかしな事言うのは、それとも単にへたれなだけか?」
「お前今日はやけに突っかかってくるな……」
「だいたい、結婚してなんて言うなら指輪は?」
「……ゆびわ」
今初めて気付いたと言わんばかりの鸚鵡返しだ。
「そうだよ、指輪ないのかよ、どうせあれだろ、結婚しよって言ったらオレがどんな顔するかな~なんて思って言っただけだろ」
「否定はしないけど」
「しないのかよ」
呆れてしまう。でも嫌な気持ちは全然なくて、実はほっとしている。
多分、好きだとか愛してるだとか言う言葉を聞けば自分は臆してしまったかもしれない。
だからなのか?なんてお前に都合よく考えたりしないけど。確かによく気の回るやつではあるが、そういう回りくどい事はしない男だ。
好きとか愛してるとか言って欲しい訳じゃないけど。
オレだってお前への気持ちを何て表現していいのか分からないけど。
「指輪、買って来たらいいの?」
優しく笑う三田村。そんな嬉しそうな顔で笑うな。もう否定されると思っていない顔だ。
最初のコメントを投稿しよう!