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「なぁ、香川結婚しよ」
は?
目の前の男は突然、何の前触れもなしに、プロポーズしてきた。
「住むのはペット可物件がいいよな、お前猫、すきだろ、実家で飼ってるから飼いたいみたいな話前にしたよな、で、キッチンは出来たら三口コンロがいいな、アイランド型がいいなーオレ、間取りは1LDKか……でもお互い個室あった方がいいかな、水回りは別々がいいよな、風呂入っている時にトイレ行きたくなるかもだし」
実家の猫の話っていつした?よく覚えてるな。
こいつ酔ってるのか?って思ったけど、テーブルの上に酒類はない。
「住むのはこの沿線がいいよなー、乗り換え面倒だもんな、出来たら職場から30分以内とかがいいな」
紫蘇の乗った豆腐を口に運びながら、オレは何も答えられずにいた。
「何か希望ない?」
目の前に座り頬杖をついてこちらを笑顔で見ているのは三田村想。同じ大学で同じ学部、そして隣の部屋に住んでいる同級生。大学卒業後も職場がこの沿線だったのでお互い引っ越しせずにこのアパートに住み続けている。
三田村が夕飯を作ってくれるようになったのは大学2年の頃。だからもう4年程になる、長いな。毎日、って訳じゃないけど夕飯、時々弁当を作ってくれる三田村には完全に胃袋を掴まれている自覚はある。
まだ適齢期という歳ではないけど、彼女がいてもおかしくない年齢だ。だが、悲しい事にオレに彼女はいないし、何故か三田村にも彼女はいない。もてるだろうに。
イケメンと言っていい顔の造形と自動販売機位ある長身。最近はジムにも通っているとかで脱げば凄いんだと豪語している(見た事は無い)
友達、親友、腐れ縁。そんな感じで出会ってからだと6年か、大学卒業してもこの関係が続くとは驚きだ。
三田村は夕飯を作ってくれる。大学の頃は仕送りされてきた米や調味料なんかを差し入れしていたけど、今はちゃんと食費を払っている。というか、食費に関しては共同財布を作って管理しているのだが。(食費を受け取らない、受け取れの遣り取りが面倒になった結果だ)
材料代は出しているけれど、労力の提供はあまり出来ていない。片付け位は手伝うけど。でも、代償とでも言うか、三田村はオレが食べてる所を毎回にこにこ見ている。大学時代からずっと。止めろと言っても聞かないので、諦めている。まぁギブアンドテイクだ。
今日の夕飯は白飯に茄子の味噌肉炒め、冷ややっこ、胡瓜とカニカマの和え物。あとワカメの味噌汁(インスタント)
オレは話を聞きながら小鉢の胡瓜をぽりぽりと食べた。
「ベランダは広めがいいな、プランターを置きたい」
三田村の趣味は料理と家庭菜園だ。初夏のこの時期はきゅうり、なすなんかを作っている。その内ミニトマトも出来るそうだ。今日の冷ややっこに乗っている紫蘇もベランダのプランターで育てたものらしい。
「何か希望ない?」
もしもオレが女子だったらうっとりと見つめてしまいそうな笑顔だ。うっとりしないけど、見飽きないものだなと何となくしみじみ思ってしまい、三田村の言った事を真面目に考え始めた。
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