134人が本棚に入れています
本棚に追加
「はあ……。こんなに気分がどんよりした日は初めてだよ。こんな時は気分転換しないとなあ……。おい、そこの君。ジェームズ中将を呼んでくれ。」
アランが近くにいた侍従に命じる。
「かしこまりました。鍛錬をなさるのでしょうか?」
「ああ。あいつにはそれ以外の用事はない。」
アランが笑いながら言い切る。ジェームズ中将とは、彼の剣術の唯一の対戦相手である。何故他の人とは対戦しないのかというと……。
アランが強すぎて、一瞬で勝敗がついてしまうからだ。もっとも、ジェームズ中将も、あくまで一瞬では勝敗がつかないだけであり、アランには連戦連敗である。そんな彼は、いつかアランに打ち勝とうと、剣術に全てを捧げている。
「そういえば、昔、兄上と手合わせした時は面白かったな。十分の一位しか力を入れてないのに、兄上の剣、飛んでいっちゃったし。」
鍛錬場に向かうアランは、昔の事を思い出して笑いがこみ上げる。まだ皇太子争いの事など考えなくてよかった頃の、ほのぼのとした思い出である。
程なくして鍛錬場に着くと、すでにジェームズ中将が待っていた。
「アラン殿下。お待ちしておりました。三週間ぶりですので、私も気合いを入れております。」
「ああ。そうだな。君の腕がどれだけ上がったか、見させてもらおう。」
「はい、是非。……それと、殿下。お願いがあるのですが。」
「なんだ。」
「もう漆黒宮に入るような真似はおやめ下さいませ!! 私のためにも!!!」
ジェームズ中将の必死の願いに、アランは大笑いする。
「剣に全てを捧げた君らしい願いだな。分かった。約束するよ。」
「ありがとうございます!」
「では、早速始めようか。今日はどれだけ持ちこたえられるかな?」
そうして二人は剣を構えた。
最初のコメントを投稿しよう!