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「それにしても、国王陛下には本当に腹が立つ。領民のことを虫けら同然としか思っていないのだから……。」
書斎に戻ったエール子爵は、自らの机に置かれた手紙を見て怒りを覚える。フラン王国の国王は、貴族に借金まみれの者がいるのを好まず、度々該当者に手紙を送りつけてくるのだ。
『フラン王国の貴族が借金に苦しんでいるなど、見映えが悪い。領民達に追加で税を課すなど、対策はいくらでもとれるであろう。領民達から搾り取れるだけ搾り取って、借金問題を解決すること。これ以上私の名を汚さないように。』
エール子爵は面従腹背ができない人だ。飢饉前からも、国王の傲慢な姿勢に疑問を持ち、あまり宮殿に出仕しなかったが、今では国王から呼ばれたときでさえ、理由をつけて家に引きこもっている。
(自分でも世渡りが下手なのは、十分に分かっているが……。この状況では国王陛下に忠誠を誓うことなどできない……。それにしても、領民に迷惑をかけることなく、借金を返済できる方法はないものだろうか……。)
彼が物思いにふけっていると、執事のセバスチャンが部屋に入ってきた。
「旦那様。実は、お客様がいらっしゃってて……。」
「お客様? 誰だ?」
「それが……。お名前はおっしゃらないのですが、プロイド帝国の貴族だと名乗っております。」
敵国、プロイド帝国の貴族が何の用だろうか。訝しんだ彼は、丁重に帰ってもらうようにと命じたが、セバスチャンの反応がおかしい。
「どうした?」
「いや、実は……。話だけでも聞いて欲しい、もし聞いてくれるのなら金貨を五〇〇枚渡すと言われまして……。」
「はあ?」
「ですので、お話だけでも聞かれては如何でしょうか?」
フラン王国の要職に就いているわけでもない、借金まみれの貴族にそこまでして会いたがる理由が全く分からなかったが、その条件に惹かれたエール伯爵は、思わず頷いてしまった。
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