アランの作戦1

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アランの作戦1

 その頃。アランも負けじと作戦を練っていた。 「どうしようかなあ……。兄上の評判を上げるのもいいけど、僕の評判を落とす方が手っ取り早いような気がする……。破天荒な行動をしてたら、国民もドン引きしてくれるだろうし。でも何をしたらいいんだろうか……。」  兄レオンと違い、頭はそんなに良くない彼は、どうしたものかとしばし頭を抱えていたが、やがてむくりと顔を上げた。 「とりあえず偵察に行くかあ。国民が僕たちの事をどう考えているのか、知ってから考えよう……。」  こうして、アランはその日の夜、下町の居酒屋に一人で出向いたのであった。 「へい、いらっしゃい、兄ちゃん。一人かい?」 「……ああ。案内してくれ。」  初めて見る光景にどぎまぎしながらも、アランは案内された席に着いた。 (賑やかな場所だな。国民はこういう店で酒を飲むのか……。)  アランが辺りを見渡す。そこには酔っ払った男達が十五人程たむろっていた。 「なあなあ、皇太子選挙まであと一年だぜ。どうするよ。」  三十分程ビール片手に観察していると、そのうちの一人がまさしく彼が聞きたい話題を口にしたので、アランも耳をすます。 「そうだよなあ。今回の候補者はお二人か。第一皇子のレオン殿下と、第二皇子のアラン殿下だったよな。」 「ああ。レオン殿下は非常に聡明なお方だと評判だし、アラン殿下も武芸に秀でたお方らしい。どちらも皇帝にふさわしい気がするけどな。」 「いや、俺は断然アラン殿下を推すぜ! 確かにレオン殿下自体は素晴らしいお方だと思うが、母親がな……。」 「ああ、それもそうか……。マリナ皇妃が皇太后になるのはちょっと抵抗あるな。」  そう。レオンの母、マリナ皇妃は国民からすこぶる人気がなかったのである。マリナ皇妃は貧乏貴族出身だったが、立身出世を図り、色仕掛けで皇妃の座を射止めていた。今もなお露出の多い服を好んで着ており、高慢で品位の欠片もない皇妃ともっぱらの噂である。 (くそ……。兄上の母親がマリナ皇妃でさえなければ、もう少しやりやすかったのに……。)  アランも決してマリナ皇妃に対しては良い感情を抱いていない。表面上こそ皇后の息子として丁重に接していたが、裏では散々嫌がらせをしてきたからだ。 (献上品と称してくそ難しい書物を大量に送りつけた事、忘れてないからな!   それも、「アラン殿下の年齢の頃、愚息レオンが愛読していた書物です」っていういらん一言を添えやがって!)  当時の事を思い返してムカムカしていたが、マリナ皇妃に対する評価を改善しなければ、自分が皇太子になる確率が高まってしまう。 (くそ……。やりたくはないが、兄上を皇太子にするためだ。)  腹をくくったアランは突然叫んだ。 「お前ら!!! マリナ皇妃に対して何てこと言ってやがる!!! マリナ皇妃は素晴らしい方だぞ!!! 実の息子ではない俺の事もとっても可愛がってくださるんだからな!!! マリナ皇妃を悪く言う奴はこの俺が許さん!!!」 「え? アラン殿下……?」 「一体どうなってんだ?」  ポカンとしている男達を尻目に、アランは店の中で乱闘を始めた。そして、通報を受けた警察が、彼を宮殿に連れ戻す頃には、店の中はぐちゃぐちゃになっていた……。
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