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高校を卒業して、たしかに大人にはなった。
できることの幅は広がり、人間関係の輪もさらに広がった。
しかし、それと同時に、心から笑うこともさらに、少なくなった。
高校生一年生のあの時は、紛れもなく本物だった。
楽しかった記憶は、記憶にさらなる磨きをかけ、時間が経つほど輝かせた。
もう一度、もう一度だけのチャンスを掴みにいってみたい、どうせ、これでダメでも今まで通りなだけである。
こうして、大学2年の夏は始まった。
香澄に繋がる手がかりを得られないのは、あの頃と何ら変わりはない。
むしろ、それを望んでいたまである。
あの頃、自分が関わっていた人達と香澄が繋がって欲しくはなかったし、彼女はあのままでいて欲しかったからである。
しかし、彼女とを繋ぐ手がかりが完全に切れていなかったことは唯一の幸運だった。
高校生の時、彼女と親しくしていた由香が同じ大学に通っていたことである。高校生の時から、顔見知り程度にはなっていたため、大学に入ると一緒に行動することが多くなっていた。
由香と仲良くなるきっかけは、香澄なのだが、大学に入ってから今まで由香とは、香澄の話をしたことは一度もなかった。だから、今更彼女の話を出すのはどうかと思ったがこの気持ちが冷めぬうちにやらねばという想いが行動を起こさせた。
「おお、やっとかぁ
何年待たせるんだか…」
「え?どういうこと?」
「ああ、そそ、香澄に会いたいんでしょ?
ほら、これ!」
由香は、永の前に茶封筒を差し出した。
受け取ろうとする永に由香は、ちょっと待ったをかけた。
「これは、高校三年の時にもらったものだから、、」
「あ、うん。」
"君が、これを見るのは何年後になるか分からないし、見るかどうかも分からないけど、これが今の気持ちだから…
君は、私にとって羨ましい存在だったよ。
明るい性格で、みんなとも仲良くできるし!
またいつかどこかで会えたときは、今度は私も君のようになれていたらいいな。"
すでに全ての経緯を知っているというような顔をしている由香は、空になった茶封筒をまじまじと見ていた。
「これ、由香は知ってたの?」
「香澄が気に入ってたこと?
そりゃあ、話に聞いてたからね。
だから、永と進学する大学同じになったことを伝えたら、これを託されたの。」
永は、手紙の裏にペンを走らせた。
"僕は、君の思っているように完璧人間じゃないよ。
根無草みたいな感じだし、香澄みたいに芯のあるのに憧れてたんだよ。
誰かに嫌われるのがこわくて、自分の感情にも嘘をついてた。
でも、君に対してだけは、正直な感情でいられた。
今も、君を求めてこの手紙を読んだわけだけど、、、
もし、いつか会えたら、今度は、みんなに対して素直に笑える人間になるからさ!"
探していたホンモノの笑顔を君以外に出せるようになるのがいつになるか分からない。
だけど、きっとできるような気がした。
書き終えた最後の文字に力を込めすぎたのか、水性のインクが滲んでいた。
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