魔王からの電話

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あー!ステラ!パパだぞう! ここは、旧経済協力連合の本拠地。月面都市ムーンベースと呼ばれている場所だった。 上陸した魔王は瞬く間にムーンベースを作り替え、地名をムーンシティーに改名した。 ステラに顔をぺいされたが構わず、ステラのうなじをクンクンしてからだっこして歩き出した。 「大分人間の匂いに満ちてきたな。行き交う人はみんな元気だし。前来た時は人間の気配なんか全くなかったからな」 「目指すは人類の躍進だ。ムーンレイスによる人類の革新はボルジャーノンと共に飛躍するのだ。だが、一つだけそれに逆行するものがあった」 ボルジャーノンって何だよ? それに、ああまあな。 「貴様が作った開かずの間は今も残っている」 「魔力の反応は?」 ブーブー言っているステラを宥めながら言った。 「部屋の外から透視魔法で見た。何だあれは?どうやったら人間があんな風になるのだ?」 「とりあえず手持ちの使い魔総動員したからな。ステラの部屋はあるのか?」 「ベビールームがこの先にあいた!何なのだいきなり!」 「まおー!まおーぺい!ぺい!」 「うちの可愛いレディーのプライドってのを理解してやれよ童貞。よし!ステラ置いたら掃除だ。誰も近づけるなよ。俺達だけでやろう」 ジョナサンは準備に取りかかった。 そこにあるのは、命の冒涜者。アトレイユ・エリュシダールという男を幽閉した小部屋(コンテナルーム)だった。 全ての命を消し去ろうとした悪は、最悪の終焉を迎えていた。 冥神マナトワに祝福された、決して死ななくなった男。 死という概念が失われた男を罰するのは、ジョナサン・エルネストにしか出来なかった。 ヒュプノスラッグ、パンクロニウムワーム、クラヤミゴケグモ、インフェルノホルニッセ、番線虫、ホーラーワーム。 全ての殺人生物を解き放った部屋の中は、今どうなっているのか。 扉を開けて、ジョナサンと魔王は言葉を失った。 まずヒラヒラと飛んでいたのは、パンクロニウムワームの成虫、鱗粉に触れただけでショックで心停止してしまう美しい蛾、ショッカーモスだった。 更に、そいつに群がって飛んでいるのはインフェルノホルニッセ。 整った頬の肉を噛み千切り、連携して肉団子を作っていた。 全身に纏わりついているヒュプノスラッグは、その皮膚を食い荒らしていた。 「ウヒ。ウヒヒヒ」 狂った声を上げるアトレイユの額が、ブヨブヨと波打ち、皮膚を突き破って、クラヤミゴケグモの成虫がワラワラと湧いていた。 頭蓋骨を突き破って飛び出したホーラーワームは、脳を食いに別の頭蓋に穴を開けていた。 部屋には、巨大なインフェルノホルニッセの巣があった。 永遠不滅の生きた餌は、虫に食われながらもその体は無尽蔵に再生を続け、その体は4倍以上に膨れ上がっていた。 笑いながら伸ばした手は弾け、一斉にインフェルノホルニッセが飛び立っていった。 恐ろしいのはホルニッセのクイーンだった。 豊富な栄養価を持つ人肉を食い、その産卵管は二メートル以上に発達し、今も大量の卵を、アトレイユに植えつけ続けていた。 「とりあえず焼こう。念入りに。虫が増えすぎてるな。この狭いコンテナの中に、恐らく百万人を食い殺す虫でびっしりになっちまってる」 「任せる。これは貴様にしか出来ん」 ジョナサンの多重展開したファイアーボールが、アトレイユ・エリュシダールごと、虫の群れを焼いていった。
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