彼の望み、彼女の願い

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 とある王宮の一室、そこで皇太子と皇女はいつものようにお茶を楽しんでいた。 「どうぞ、アルフォンスお兄様」  皇女が手ずから淹れた紅茶を受け取ると、蜂蜜色の髪と瞳の皇太子は貴婦人達を一目でとろけさせる微笑みを浮かべた。 「今日のお茶も良い香りだね。君が淹れてくれるお茶はたとえ毒入りでも美味しいよ」 「今日の毒はシーダ地方でしか採れないカッツァ茸の粉末ですわ」 「ああ、あれね。また今回も珍しい物を探してきたものだね」  非常に物騒な会話を、二人はにこやかに交わす。  皇女は自分の従兄弟であり、このままだと将来の夫になる青年の変わらぬ微笑みを眺め、ほう、と溜め息をついた。 「また駄目でしたのね。お兄様は、色々な毒に耐性をつけておられて……困ってしまいますわ」  淡い金髪と琥珀色の瞳の皇女は、可憐で愛くるしい容姿を憂いに染めてさらりと従兄弟の殺害計画を口にする。  しかし、皇太子はにこやかな微笑みを微塵も崩さない。 「もう諦めたらどうかな? フェリーシア。僕は君をとても大事にするよ?」 「私の足に鎖を繋ぎ、高い塔に閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくないくらいに。ーーでしょう?」 「よく覚えてくれていたね、フェリーシア。その通りだよ、愛してる」 「とっととくたばってくださいな、変態」 「嫌だなあ。もちろん、本当にはしないよ? 王妃を塔になんて閉じ込めるわけにはいかないだろう? そのくらい愛しているということだよ」  皇女の辛辣な言葉にも皇太子は穏やかに笑うだけだが、その瞳に宿るのは、ねっとりとした甘い毒。  彼の本心を感じとった皇女は、逆に瞳を冷たく凍らせる。 「早いとこ死んでくださいな、お兄様。ご心配なさらずとも、この国は私がしっかりと守ってみせますから」 「勘違いしないで欲しいな、フェリーシア。確かにこの国のことも気になるけど、僕が心配なのは君だよ? 確かに君なら女王としてうまくやっていくだろうけど、僕以外の男を王配に迎えるなんて、絶対に認められないね。何があっても僕は君を妻に迎えるよ。王になってね」
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