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「今日から、ここがキミの家だよ」
そう聞こえたあと、大きな手が私の頭を撫でた。優しく包むような温もりに、ひどく安堵したのを覚えている。
ろくに暖房が効いてない車に乗せられて、数十分。ほんの僅かなドライブで辿り着いたのは、見たこともない家とそこに住む家族だった。
「キミはもう、うちの家族の一員だからね」
優しげに目を細めながら、その人は軽々と私を抱き上げる。自分の身長よりも高くなった目線に、私の身体が密かに震えた。
「お父さん、僕にも抱っこさせて」
男性の足元で、目を輝かせた男の子が両手を広げる。
お父さんと呼ばれた男性は、男の子の目線に合わせて座り込むと、私をその子の腕に優しく抱かせた。
「離しちゃダメだよ、落っこちちゃうから」
「うん!」
嬉しそうに頷いて、男の子が私に頬を寄せる。どこか甘い香りを感じ、無意識に強張っていた身体の力が抜けた。
そう広くない胸に頬を寄せれば、小さな鼓動が伝わってくる。
「ねぇお父さん、この子の名前は?」
「小雪だよ。この子が生まれた夜に、雪が降っていたんだって」
そうか、私の名前は「小雪」というのか。
まるで他人事のように思っていると、男の子は嬉しそうな笑みを浮かべて私を抱き締めた。
「小雪ちゃん……今日から僕が、キミのお兄ちゃんだよ」
――それが、私の中に在る一番古い記憶。
× × ×
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