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「ほら、可愛い」
この家に住む家族の一員になって、数日。
仕事から帰ってきたお父さんが「お土産だよ」と、私にリボンをつけてくれた。その直後、強い浮遊感に襲われる。
「可愛い! 小雪、可愛い!」
「こら、そんな急に抱っこしたら、小雪が驚くだろ」
「だって、可愛いんだもん! 小雪は女の子だから、赤いリボンが似合ってるね」
「……」
まっすぐ見つめられ、なぜか恥ずかしさが勝った。肝心のリボンを、自分で見ることができないのも理由だったかもしれない。
「カズマ、小雪が下りたがってるよ。放してあげなさい」
軽く身を捩ると、真っ先にお父さんが気付いてくれた。渋々ながらもカズマは、私をゆっくりとソファに下ろす。
そこから軽く跳んで、私はリビングに置かれた姿見へと駆け寄った。
「そっか、小雪もリボンが見たかったんだ?」
私の目的を悟ったのか、カズマが笑みを浮かべる。
そして私が、鏡に映った自分の姿を見た時だった。
「え……?」
「ほら、可愛いでしょ?」
絶句する私の隣に並んで、カズマは笑っている。
けれど――
私の目に映ったリボンは、まるで泥水のような濁った色にしか見えなかった。
× × ×
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