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――準備は万端だった。
先生も走るほど忙しいという師走月。俺は仕事の合間を縫って、小学生になったばかりの可愛い双子たちのクリスマスプレゼントを買い、妻には失くしたと言っていたピアスを奮発した。
子供たちのプレゼントは在庫がなく、隣の県のデパートまで足を運んだし、妻へのピアスに至っては何店もの宝石店を渡り歩いた。もちろん、そのツケは仕事に回り、俺が家にたどり着いたのは、クリスマス当日の早朝、午前五時のことだった。
疲れてへろへろの俺がそっと家に入ると、ダイニングテーブルの上で、小さな玩具のツリーが光っている。その下には、ミルクとクッキー。そういえば、妻が「サンタクロースさんに食べてもらおうね」、そう子供に教えていたことを思い出す。
俺はへたり込むように椅子に座り、枕元に置く予定のプレゼントを机に置くと、ミルクを飲み、クッキーを食べた。子供たちが焼いてくれたのだろう、形が不揃いなクッキーは幸せの味がした。だからだろうか。俺はあろうことか、そのまま、うとうとと眠ってしまったのだ。
――準備は万端だった。そのはずだった。
しかし、眠りこけていた俺は、子供たちの騒がしい声で目を覚ました。次の瞬間、血の気が引いた。
サンタさんのプレゼントがない――起きて枕元を見た子供たちは、泣いてしまうに違いない。慌てて飛び起きた俺に――――なぜか、妻と子供たちはにっこりと笑っていた。その手には、俺が机の上に放置してしまったプレゼントを持っている。
「あ、いや、これは、その……」
言い訳をしようとする俺。しかし、笑顔のままの三人は、俺に向かってこう言ったのだった。
「おはよう、サンタクロースさん」、と。
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