コーヒーとチョコレートと、未来の話

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「逆に、水野君の考える近い未来って何?」 「そりゃ、昇進して経済的な基盤が出来たら結婚して子供が出来てとかですかね」  即答されて言葉に詰まる。軌道修正したつもりが一つも逸れてなかった。胸に重苦しいものが落ちてくると同時に、心なしかコーヒーが苦みを増したような気さえする。しかし平静を装って会話を続ける。表情を繕うのも手慣れたもの、これが歳をとるということなのだ。 「そう、恋人は居るの?」 「それが中々。好きな人は居るんですけど、アプローチに全然気付いてくれなくって」 「へぇ、それは意外。どんな人なの?」  包み紙から取り出したチョコレートを口に含みながら思ったことを口に出す。程よい甘さが口の中に広がった。それをコーヒーで流し込む。  こう言っては何だが、チームの最も可愛いと言われる女の子に誘われようが気付かないような野暮天なのでてっきりそういうことには縁遠いのだと思っていた。彼の横に並ぶ見知らぬへのへのもへ子さんを思い浮かべるが、彼が睦言を囁く様など想像もつかない。 「その人とは週に五日はこうして話をしているんですけどね。あ、園田さん達が帰ってきた」  洗ってきますね、と私の手からコーヒーを奪い取り給湯室へ駆けていく彼の背中にん? ちょっと待て! という言葉が出そうになるが、入れ違いに部屋に入ってきた彼女達の手前口を噤む。彼の方へ視線を向けると、少しだけ耳が赤くなっているような気がしなくもない。そんな馬鹿な、と思いつつも少しだけ想像する。コーヒーの苦さの中に少しだけ後味の残るチョコレートのように甘い、プロジェクトが終わるよりは少しだけ遠い、未来の話を。
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