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プロジェクト最年少なだけあって遠い未来、と言うか夢のある世界について語ってくれる。しかし未来とはもっと現実的なものであるべきじゃないのか。そもそも……、と考えている途中で彼がチョコレートを差し出してきた。
「佐山さん、また難しいこと考えてるでしょう」
「君が能天気すぎるだけでしょ」
一言お礼を言ってからコーヒーを差し出し、チョコレートを受け取る。彼は食後には必ずチョコレートを食べる。以前彼の机の後ろを通った際引出しにびっしりと詰まっていた。少なくとも近い未来苦労しそうではある。
「じゃあもう少し遠い未来のこと考えてみましょうよ、将来世界はどうなってると思います?」
これまた難しい質問を、と思いながら少し真面目に考えてみる。もしも世界がこのまま続いていったらどうなるだろう。尤も、その頃に自分が生きている保障はないのだが。
「慢性的な水不足により各地で勃発する紛争、国連の介入が第三次世界大戦を誘発し……」
「分かりました、もういいです」
ハァ、と溜息を吐きながら私の淹れたコーヒーをそのまま啜る。彼は何も入れないタイプか、覚えておこう。同様に不純物の混在していないコーヒーを口に含む。程よく広がる苦みが口直しには丁度いい。
「佐山さんは現実的すぎます、もう少し夢を抱きましょうよ」
「夢ねぇ……」
夢とは一体何だったのだろう。子供の頃はケーキ食べたいからケーキ屋さん! なんて言ってたっけか。その後は景気の良さに後押しされ入社した会社で恙なく痛い目を見、良縁に引っかからずにもうこの年だ。このプロジェクトの後、いくつか仕事を熟したら定年退職。はて、老後には何をして過ごそう。一気に呆けてしまいそうだ。いかんいかん、後ろ向きな思索に耽る前に会話を軌道修正せねば。
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