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カイトサイド 1
「お疲れ様です。お先失礼します」
そう言って俺は部屋を出た。その数秒後
「カイトく〜ん」
今まで雑誌の対談で一緒に取材を受けていた神崎恵が同じ部屋から出てきた。
俺は聞こえないふりをしたまま足を進めた。
もう一度声を少し大きくしてまた呼ばれた。
小さく”チッ”と舌打ちし渋々足を止めた。
「カイトくん、今日これから用事ある?ご飯でもどう?あ、もちろん他にも声かけて。どう?」
得意なのか知らないが上目遣いで近づいてくる。
『どうせ他には声かけず二人きりで行こうとしてるんだろ?』と心の中で思った。
「この後約束があるから」
約束なんてない。そう言ってまた足を戻して帰ろうとした。
すると彼女は俺の腕を掴み紙切れを掌に押し当て
「ここで待ってるから」
彼女は笑いながら小走りで去って行った。
「気持ちわるっ」
悪態とはわかっているが言葉が出てしまう。
クシャクシャにしてエレベーター前のゴミ箱に捨てる。
あいつの名前書いてここに貼り付けてやろうかなんて考えながら。
地下駐車場まで降り、出口を出るとマネージャーの木崎さんが車を付けていてくれた。
「お疲れ様です。もう神崎恵は無しで」
木崎さんは察した様に
「了解」
と事務的な返事をした。
木崎さんはデビュー当時から面倒を見てくれている女性マネージャーで、昔少しモデルもしていたらしい。
なので結構身長も高く学生時代バレーボール部で肉付きもガッチリしていてなかなか威圧感がある。
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