カイトサイド 1

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「それでいいんじゃない?その状態のあなたを必要としてるからオファーが来るんだろうし、あなたが思う以上に一生懸命仕事に向き合っている姿は共演者やスタッフには伝わってるわよ。ちゃんとそういう声はこっちに届いてるから大丈夫よ」 それを聞いて目頭が熱くなった。 今まで顔だけだの見た目だけだの陰の声を聞いてきた。 だから余計に懸命に頑張った。 今までしてきた事を肯定されたようで心の底から嬉しかった。 「じゃあ一番辛かった仕事は何だった?」 「1年弱続いた映画の撮影かな。まだまだ演技素人だったし、大御所さん達いっぱいいたし。NGいっぱい出してたし」 「じゃあ1番楽しかった仕事は?」 「んー、やっぱりその映画かも。あれはほんとに沢山学んだ。終わった後少しだけ大人になった気分だった」 「じゃあそれなんじゃない?あなたが1番やりたい事は。人間学べる環境を楽しいと思える事はとても大事だよ」 それからもどんな仕事も真剣に向き合った。 お金をもらう以上責任を負わないといけない。 同じ仕事現場のスタッフもきっと責任を負っているはず。 それで家族を養っている人もいる。 俺が足を引っ張る訳にはいかない。 そんな昔のやりとりをぼーっと思い出していたら家に着いた。 「じゃ、明日8時に迎えに来るから。寝坊しないでね」 「はーい」と少し浮ついた返事をした。
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