届かない手紙、伝えたい言葉

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 約束の日の明朝、おれは最寄りの駅の乗降場へと来ていた。年を越してしばらく経つが、寒さが和らぐ兆しは見えない。今も刺すように冷たい風が頬を掠めていくものだから、首を縮こめて襟巻きに顔を埋めた。悴んだ手を温めるために両手を擦り合わせながら汽車が来るであろう方向を眺めていた。  暫くそのままで待っていると、朝の静けさを破るような音が遠くから聞こえてくる。汽笛の音が鳴り響き、速度を落とした汽車がゆっくりと駅に近づいてきた。  扉が開き、中からぞろぞろと人が出てくる。通行の邪魔にならないように柱の近くに下がりながら、目当ての人物を探した。 「あ! 先生!」  聞き覚えのある声が飛んできた。そちらを見ると、頭の中で思い描いていた人がそこにいた。長い髪を一つに結え、くるりとした瞳がおれを見つめている。寒さも相まって、元から赤くなりやすい顔が真っ赤になっていた。 「お久しぶりです! こっちもまだ少し寒いですね!」  すん、と小さく鼻を啜る音が聞こえた。彼はいつもの服装に羽織を引っ掛けただけのような出立ちで、見ているだけでこちらまで寒くなるような心地だった。 「……千歳、なんでそんなに薄着なんだ」 「えぇ? そうですかね?」 「なんのために養生をしに行ったと思っているんだ、全く……」  自分よりも上背のある千歳を少し屈ませて、自分が巻いていた襟巻きを外して千歳の首に巻いた。はじめはきょとんと目を丸くしていた千歳だが、おれがそうすると驚いたように目を見開いた。 「い、いいんですか? 先生寒くありませんか?」 「煩い、大人しく巻いていろ」 「……暖かいです、ありがとうございます」  素直に襟巻きを身につけた千歳は、先程の俺と同じように襟巻きに顔を埋める。はぁ、と漏らした息が白くなって空気に溶けて消えていった。 「外に車を待たせてある。行くぞ」 「あ、はい!」  千歳が持っていた大きな鞄を奪うように持って先を歩くと、慌てたように千歳が後ろをついてくる。焦ったような声で、後ろからわぁわぁと何かを言っていた。 「先生! 自分で持てますよ!」 「早くしろ、寒い」  おれに逆らうことができない様子の千歳は、そう言われると黙って大人しく後ろをついてくる。  外に待たせていた車に二人で乗り込んで、出発するように伝える。軽く返事をした運転手は一つ車の発動機(エンジン)をふかしてから、おれの自宅に向かって走り出した。
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