まつろわぬ神々の子守歌

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 数週間後、夏のある夜、あの湾岸の建物から異臭と異音がするという通報を受けた二人組の制服警察官がパトーカーで現場へ到着した。  年上の警官が懐中電灯でビルを照らしながら掌で鼻を覆った。 「こりゃ確かにひどい臭いだ。生臭いというか。だが、死臭とは違うな」  若い警官も顔をしかめて辺りの地面を照らした。 「インバウンドを当て込んで建設したけど、途中で放棄されたビルですよね。何か生き物が住み着いたんでしょうか?」 「あっちのシャッターが開いてるな。駐車場の入り口か? ちょっと見て来る。ここで待機してくれ」  年上の警官がその場所へ近づく。すぐに悲鳴が上がった。若い警官が驚いて灯りを向けると、年上の警官の体に何か太いホースのような物が絡みつき、彼の体はそのままビルの中に引きずり込まれた。 「まさか、ニシキヘビか?」  若い警官が駆け寄ったが、同僚の姿は帽子だけを残して消え去っていた。グルルという低いうなり声が聞こえた。  若い警官が懐中電灯の明かりを上に向けた。二階の窓に巨大な目玉が見えた。警官があわてて走り出そうとした瞬間、ビルの外壁が内側から崩れ、巨大な手が警官を上から叩きつぶした。  その巨大な生き物は、ビルの外壁をさらに崩しながら、外へ体を現した。頭部と上腕は猿、胴体は虎、背には亀のような甲羅があり、後脚は狼のよう、尻尾は目の無い蛇のような形。  その巨大生物は完全に外へ出ると夜空を見上げ、ヒョーヒョーと甲高い鳥のような声を響かせた。  巨大生物は血走った眼を巡らせる。高級住宅街のマンションの灯りが遠くに見える。その巨大生物は地響きを立てながら、その住宅街の灯りの方へ向けて、後ろ足で立って歩き始めた。
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