まつろわぬ神々の子守歌

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 紗理奈(さりな)のスマホに通話の着信が入ったのは、両親と避難の準備をしている最中だった。  謎の巨大生物、今は便宜的に「ヌエ」と呼ばれている、あの怪物がやって来るかもしれないという事で、紗理奈の住む住宅地一帯にも避難指示が発令されていた。 「もしもし、え? ミナセちゃんなの。岐阜に住んでた時のクラスメートのミナセちゃん? わあ、久しぶり。あ、悪いけど今立て込んでて……え? どういう事?」  紗理奈は父親に向かってためらいながら言ってみた。 「ねえ、お父さん。今から車出してもらえる?」  父親はキャリーバッグに荷物を詰め込む手を止めて、ポカンとした表情で訊いた。 「何の話をしてる?」 「あたしが中学生の時、お父さんの転勤で岐阜県に住んでたでしょ。あの時のクラスメートだったミナセちゃんて子、覚えてる?」 「ああ、神社の神主さんの娘さんだったな。あの子がどうした?」 「すごく大事な用があるんで、あたしに助けて欲しいんだって。この怪獣騒ぎに関係があるかもしれないって」  紗理奈の母親が驚いて声を上げた。 「何よそれ? それに今こんな時なのよ」  紗理奈はスマホを顔にあてたまま、首を傾げながら言った。 「それが、もう品川駅まで来てるんだって。新幹線そこで止まっているから」  ヌエの予想進行方向が、紗理奈の住む地域とずれている事がテレビのニュースで分かって、結局父親は紗理奈とともに車で品川駅へ向かった。
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